たすけてあげる

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 長い睫毛。それはもう、フランス人形のようにスッと天に向かって伸びている。他者の心を鷲掴む瞬きに息を飲んだら、彼女の手がしなやかに自身の上半身を包む。 「このカタチ(、、、)はね、"アイドル"なんだって」  妙なイントネーションで一瞬思考が停止した脳内はひとつ、またひとつと彼女の告げた単語を頭に落としていく。 「カタチ……アイドル?」  カタチと言った、アイドルと言った。  繰り返しただけの台詞ににやりと口角を上げた彼女はその表情を妖しく歪める。 「なまえ、おしえて」 「え……花南(かなみ)、だけど」 「カナミはこのカタチがすき?」 「好き? って…ちょっと待って、何を言ってるの」  聞けば聞くほど混乱してきた。  カタチって何、好きってどういうこと?ハテナを次々頭に浮かべる私を見守るような彼女の笑みは儚くも美しい。  何故だか真っ直ぐこちらを見つめる瞳は宇宙のように広大で、いくつもの惑星を秘めている。私には到底触れることも叶わないそれに吸い込まれるようにして見つめていれば、ふいに距離を詰めた彼女の顔がすぐそばにまで迫っていた。 「…な、なに」  理想的な二重瞼の幅数ミリは、私の心をがっちり掴んだままゆっくりと距離を縮めている。たった数センチ、鼻息さえも届きそうな至近距離に呼吸を止めれば、彼女はふ、と笑った。 「カナミはカワイイね」  そうして触れたのだ。  ちゅ、と互いの唇が。
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