だから、ちょうだい

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「ねぇ、見てて」  呟いたら、少し苦しそうに表情を歪め微かに唸る。体感にして数秒後、一糸纏わぬ上半身がぼこぼこと脈を打ち、それぞれが大きな3つの塊となって皮膚を突き破る。  ひとつは肩に、ひとつは胸に、ひとつは脇腹に。そのどれもが人の顔を模していて、過去にスズリが型どってみせた私の推し、お母さん、弟の祐くんの顔面が皮膚に浮き出ているのだ。  見知った顔が突如現れた驚きから「ひ、」とか細い呼吸が漏れた。怖い、気持ち悪い、渦巻く感情の全てが負のものなのに、スズリの表情は恍惚と満足気。  今更になって得体の知れない生き物に私は恐怖した。がくがくと震える足の間からあたたかいものが流れ出て、それが失禁だとわかっても目の前の化け物から目が離せない。 「君が"好き"なものばかりだよ。だから早く好きって言って、笑ってよ──俺の、花南」  スズリの手が真っ直ぐ私の頬を撫で、唇を這って、そのまま深く口づけた。叶うのなら、この化け物を拾ったあの夜まで戻りたい。  スズリの舌が唇を割ってにゅるりと侵入し蝕んだ。それはまるで私を、私の全てを、巣食っていくようであった。
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