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「どうしたの、じゃない」
「なんで? わかんない」
「これは好きな人同士がすることでしょ」
「カナミはこのカタチすきじゃない?」
真っ直ぐ向けられるのは純粋な眼差し。
いや違う、一見純粋そうにみえる眼差しだ。
掴めない彼女のふわりと擦り寄ってくる台詞に対する返答を考えるのに精一杯で、変な汗が噴き出てくる。
カタチとか、すきとか、この人はさっきから何を言っているのだろう。彼女の次元に本気でついていこうとしたら頭がおかしくなりそうで、早々に対話を諦めた私はとにかく首を横に振る。
「好きかどうかは聞かれてもわからない、ただあなたとキスをする間柄にはないので、もうやめて」
ハッキリNOを示してみせたら、彼女は光をたっぷり集めた瞳できょとんと首を傾げてみせる。ずるい。捨てられた子犬のような目だ。
それでもだめなものはだめと拒絶する手をするり、軽く避けた彼女が徐に立ち上がり室内を物色するように見回し始めた。
「ちょ、ちょっと、今度は何…」
一人暮らしの我が家にあるものと言えば、必要最低限の家具家電に圧倒的な量の推し活グッズ。
棚や壁を覆い尽くすうちわにペンライト、アクリルスタンドは未成年と楽しく飲酒した罰を今まさに世間からのバッシングで受けている罪深き推しの姿。
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