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その言葉により一層ざわめき立つ 記者会場。 「じゃあ今この場に集まっている僕達もアレルギーを発症するって事ですか」 上擦った声を上げた記者が手をピンと 立たせて質問する。 テレビ越しで見る限り かなりの人数が集まっているように見える。 アレルギーの詳細を聞いていないだけに 不安になるのも当然だと思う。 「いえここに集まってもらう際、受付で血液型を申告してもらったかと思います」 「今ここにはAB型の人たちしか居ませんのでそこはご安心を」 首相からの答えに 各々から安堵のため息が漏れ 「だからわざわざ申告が必要になったのか」 と声も聞こえた。 「ですが」 緩まった場を引き締めるかのように 低い首相の声が響く。 「すでに発症している方もいらっしゃるかと思います」 「症状としてはまず強い痒みに襲われ、皮膚が赤く爛れ始める」 「その後皮膚は剥がれ落ち肉塊があらわになります」 「この状態になってまでも痒みはなお続き掻きむしる手を止めることはありません」 「挙げ句のはてには身体から水分量が失われていき、ミイラのような乾ききった状態になってしまいます」 ゴクリと固い唾が喉が通るのが分かり 自分自身の背筋も凍っていく様が 感じられた。 首相はまだ言葉を続ける 「これは大変な苦しみになります」 「人によっては助けを求めすがりついたりいっそのこと殺してくれなど言ってくることでしょう」 「そこで今この瞬間から、安楽死制度を設けます」 「もしあなたの目の前にこのアレルギー  我々の間では“トーチャーアレルギー“と呼んでいます」 「このトーチャーアレルギーを発症した国民が“殺してくれ“、“死なせてくれ“とあなた方に乞うてきた場合は“その言葉通りにしてしまって構いません“」 「今建物内に強制された人々の中には当然A型とO型の人が同じ空間にいる事でしょう。そしてその場合にはアレルギーを発症するのは時間の問題です」 「我々も今日に至るまで何か解決策はないか、このアレルギーを止めるすべはないか話し合ってきました」 「でも何も手かがりは掴めなかった」 「そして一つの案に辿り着いたのです」 「このアレルギーから人類は逃れることができない。A型、O型の人が苦しみ悶続ける位ならB型、AB型の人たちが介錯する事がせめてもの情けなのです」 「だからB型、AB型の方々は“躊躇わずに“殺生してください、また新しいアレルギーが出る前にここで食い止めるべきなのです!」 首相は力強く拳を握り 空へ向けるポーズを取った。 会見場は みるみるうちに首相への批判の声が止まず 手持ちの資料や空になったペットボトルなどを投げる カオスな雰囲気へと逆戻りした様を 映し出したまま会見の様子が終わり 通常のニュース番組へと切り替わった。 僕は手の震えが止まらず それに加え全身の筋肉が強張っていく。 幸いなことに僕はAB型だ。 A型やO型と近づいても発症はしない。 「さぁ、首相の緊急会見の見て頂きましたが福田さんどのような感想を持ちましたか」 無機質なアナウンサーの声に ふと意識が持っていかれ テレビに視線を向ける。 先程まで痒みに苦しんでいた 女性コメンテーターの姿は スタジオから居なくなっていた。 隣にいた中年男性のタレントも 姿が見えない。 そして女性コメンテーターが座っていたであろう席に赤いシミと黒い塊があるのが分かった。 僕はそれに吐き気を覚えたが テレビの画面をオフにして 急いでスマホを取り出して 【080-XXXX-〇〇〇〇】の番号に 電話をかけた。 1コール、2コール、3コール経っても 一向に出る気配はない。 僕は冷や汗が止まらず 落ち着くことが出来ない。 部屋中を目的もなく歩き回る。 今この時間は大学の中に居るはず‥‥ 無情にも電話のコール音だけが 耳の中に響く。 僕の最愛の彼女は“A型“だ。
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