あつめる、あつめる。

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 ***  涼香の話はこうだ。  新設校にも拘らず、四階には不自然な空き部屋がある。それが、資料室、と書かれたプレートがかかった一番西端の部屋だ。  資料室と書いてあるのに、そこには本も資料も何も入っていない。ファイルの一つもなく、ステンレス製の棚がからっぽの状態で並んでいて、白いテーブルとパイプ椅子がいくつか放置されているのみとなっている。  何故、こんなほとんど機能していない部屋が残されているのか?  理由はただ一つ。この部屋で人が死ぬ事故があり、その結果事故物件のようになってしまったから、だという。  この部屋を使った人間は呪われて、死んだ生徒と同じような死に方をする――というのだ。 「あのう」  私は思わずツッコミを入れた。周囲にいる他の一年生、二年生、三年生の部員たちも総じて微妙な顔をしている。 「話、ぼんやりしすぎてません?ていうか、あの部屋が今使われてないのって、漫画研究同好会が出来てあっという間に廃部になったからじゃありませんでしたっけ……?」  あそこに部屋についての話は自分も聞いたことがある。元々は資料室だった部屋を、漫研が部室として使いたいからと譲って貰った部屋だったと。  だがしかし、二年生の部員たちで作ったその同好会は新しい部員が入らず、結果彼らが卒業すると同時に廃部になってしまった、という話だ。部活動は最低五人の部員が必要、同好会は三人。その人数を下回ると、基本的に廃部ということになってしまうと聞いたことがある。  まあ、一学年しかいない部活なら、彼らが卒業と同時に部員数もゼロになって必然的に消滅することになっただろうが。  ようするに、事故でもなんでもなく、単に使っていた面子が卒業したからというそれだけの理由だったような。 「って、あたしも聞いてたわよ。でも違ったの、真田(さなだ)さん!」  くわ!と私に顔を近づけてくる涼香部長。ちなみに真田朋美(さなだともみ)というのが私の名前である。 「確かに漫研があって、廃部になったから空き部屋になったのは事実。でも廃部になったのには秘密があったんですって!」 「それが事故だってんですか」 「そうそうそうそう。事故があって、それで怖がってみんな漫研に入らなくなって、それで廃部になっちゃたって話……!ねえ、気になるでしょう?どんな事故があって、どんな幽霊が出るのか、調べてみたくなるでしょう?」 「は、はあ……」  確かに本当ならば、気になる話ではある。  ただ、私としては首を傾げるところでもあるのだ。今まで友達と学校の怪談について話すことはあったが、四階の空き教室=資料室についての話は誰からも聞いたことがなかった。  そんな幽霊が出るだの、事故死だの、そういう話が事実ならば自分やオカルト好きな友人たちの耳に入ってきそうなものだが。 ――誰かが、面白がって変な噂流してんじゃないのかなあ。  とりあえず、このモードになってしまった涼香部長は止まらない止められない。  付き合って自分も怪談特集のための調査をするしかないだろう。仕方なく、私はそう割り切って情報を集めることにしたのだった。
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