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『ああ、漫研のこと?確か、女の子がうっかり糸鋸で両手を切り落としちゃって、それで死んだって話!……え?糸鋸?なんで資料室にそんなものがあるのか?……さあ、それは知らないけど……』
「みんな見て見て、この写真!今日ね、資料室を見に行ったらね、本当にあったのよー血の付いた糸鋸が!怖くない!?」
『女の子が死んだ時、床が血で真っ赤に染まったんですって。彼女は痛い痛いって泣きわめいて暴れたんだけど、救急隊が駆けつけた時にはもう息がなくて。しかも、何故か千切れた両手が見つからなかったらしいわ』
「すごい……撮影してみたんだけど、これ!本当に、資料室の床が血で真っ赤になってたの。もう一度振り返ったらもう何もなくなってて……すごくない!?」
『どんな幽霊が出るのか?ちぎれた手が見つかってないから、なんだろうな。その二つの手が、本体を探して彷徨ってるらしいぜ。ぺた、ぺた、ぺた、って手だけで這いずりまわってるのを見ることができるって……』
「あたし見た、見たわよ真田さん!女の子の手が、床を這いずりまわってる姿を!これはもう、本物じゃなくて!?」
何かが、おかしい。
私達が情報を集めると、毎回何故か友人の誰かしらから、資料室に関する新情報が出てくるのだ。その内容が、どんどん更新されていき、涼香部長が資料室を確認しにいくと必ずそれが再現されているのである。
私は、段々と怖くなってきた。
まるで、誰かが噂を流して、その思い通りになるように資料室の状況をデザインしているかのようではないか。
――おかしい。だって、資料室には私も行ってるのに。
最初に行った日。私が女の子の泣き声を聞いたあの日、私は中に入って泣き声の主がいないことを確認している。録音・再生機器がないかとも疑ったので、ステンレス棚やゴミ箱にいたるまで念入りに探したのだ。あの時、目的のものはなかった。同時に――血の付いた糸鋸、なんてものも絶対見つからなかったはずなのである。
そもそも情報源となった友人も首を捻っていたが、本来資料室に糸鋸があるのは変だ。もっと言えば、漫研の部室で漫研の部員が、糸鋸を使ってなんの作業をしていたんだよというツッコミも入る。
「あの……その、先輩」
私はついに、涼香に進言した。
「この怪談、なんか変です。……情報を集めれば集めるほど、どんどん悪い方にアップデートされていってるみたいな。その通りに、怪異が起きてるような気がします。これ以上調査したら、嫌な予感しかしないです」
「ええ、何よ、ここからが面白いのに!」
案の定、私は彼女の機嫌を損ねてしまった。私以外の部員たちも数名、これは嫌な予感がすると止めたのだが――涼香は、“元漫研部室の資料室”の調査を続行すると言って聞かなかったのである。
真実を明らかにするのが、新聞部の使命なのだから、と。
「絶対、この怪談の調査を成功させてみせるんだから!みんなだって、真相がどうなってるのか気になってるでしょう?」
そのあと、何が起きたのか。
数日後――涼香は四階の廊下で倒れているのを発見された。それも、両手首を切断された遺体となって。
私は彼女に頭を下げて、怪談の調査と特集記事の担当を降りていた。だからその後、涼香がどのような情報を集めて、一体何を知ってしまったのかは定かではない。
果たして、あそこの部屋には何がいたのだろう。
あるいは、誰かの悪意が、本物の怪異を築き上げてしまったのだろうか。
真相はわからない。最終的に、資料室にいるとされた怪異がどんな存在となり、どのような被害を齎すものに帰結したのかも。
あるいは、まだまだ私が知らないうちに最悪のアップデートを重ねているのかもしれない。
三年生になった今。
腕を切り落とされて死んだ生徒は既に、五人に上っている。
それも、四階ではない場所で。
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