我 / 僕 × 在雪景中 / 雪花の中で

11/32
前へ
/34ページ
次へ
お互い(かる)く頭をさげて終わればよかったものの、綾人のことを考えていた俊は、彼が気になり無意識に思わず見つめてしまっていた。合わせて、ちょうど俊がこれからトイレに入る人、綾人が出てくる人であったため、立ち位置が綾人の足を俊の方へと向かわせる。 綾人「あ、さっきはどうも」 俊:「あ、はい」 綾人「直央斗のやつ、大丈夫でしたか?」 俊:「はい?」 綾人「アイツ、俺と一緒に俺ん()から来たのに、会場に着いてさっきの連中と合流した途端、『ちょっと忘れ物したから先に伊藤くんたちと行っててー』っていったん帰っちゃって。だから心配してたんですよ」 俊:「………」 綾人の言葉を聞いた瞬間、俊は自分の中で言葉では表現できない『何か』が起こったのを感じた。そして(さと)った。直央斗と二人でここに来る前に、直央斗が『何をしていたか』を理解した。 綾人:「あ、あの………」 俊:「あ、はい?」 綾人:「大丈夫ですか?」 俊:「ああ、はい………」 綾人:「ならよかった。ところで直央斗のヤツもう帰りましたか? 来夢たち、あ、中学のヤツら来てたんで写真撮ろうと思って」 俊:「あ………すいません。俺も知らなくて」 綾人:「え?アイツ、帰っちゃったんだ」 俊:「………」 綾人:「あ、いえ全然。ただ俺の知ってる直央斗って(やさ)しいから。友達おいていきなり帰っちゃうって(めずら)しいなって思って……まあ、なんかあったんでしょ。アイツそういうの言わないときあるし。あ、ありがとうございます。教えてくれて」 俊:「あ、いえ………」 「じゃあ」と言って綾人がそのまま去っていくのと同時に、俊もトイレに入る番がまわってきた。(よう)を済ませ、洗面台(せんめんだい)蛇口(じゃぐち)のセンサーに無意識に手をかざす。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加