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直央斗がそう言った途端、俊はトレーニングを止め、直央斗が足をおさえたまま、おもむろに上体を起こした。そして片腕で姿勢を保って荒い息をしながら、ただ何も言わずにじっと直央斗の顔を見た。直央斗は続けた。
直央斗:「まずは『ありがとう』。俊、成長したよ………さっき気を使ってくれてたんだよね? でもいいよ」
俊:「………」
直央斗:「高校の時を最後に、あれから3年。もう忘れたかなって思ったけど。綾人が挨拶来た直後から、様子がおかしくなったからすぐにわかった。どうせ今日一日だけの関係だし、放っておくつもりだったけど………もう見てらんない」
俊:「………いや別にそんなん……」
直央斗:「そう。なら俊の気持ちが少しでも軽くなるように、まずは僕から今の気持ちを伝えてもいい?」
俊:「………何?」
直央斗:「もしも俊が『僕と一緒に死にたい』と言ったら、そして、逆に僕が死にたいと思ったら、『親友』の綾人も他の人も誰も選ばない、だから、そのときは―――」
直央斗:「―――俊がよければ、僕は君と二人で天国まで逝きたい」
ただ一瞬だった。重い雲と雲の間から少しだけ光が差したようだった。
ただやはり雨だった。俊の目から一筋の、雨のしずくのようなものがこぼれ落ちていた。
俊:「………なんだそれ」
直央斗:「知ってる」
俊:「いや!別にそんなんじゃないからね!なんか『お前のこと好き』とか、そんなんじゃ」
直央斗:「そうだろうね」
俊:「いや、俺も!正直よくわかんねぇなあって」
直央斗:「うん」
俊:「まあ、でも………」
そう言ってうつむく俊。直央斗は左手を伸ばし、そんな俊のほおに手をそえた。
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