雨に佇む

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まいったな、と葉月は呟いた。 図書館に籠もり、閉館時間だからと追い立てられてエントランスに出ると、豪雨だった。 戻ろうにも図書館は閉まってしまうし、司書に頼んで雨宿りさせてもらおうにも、追い立てたあの顔色を思うとそれも無理そうだった。 まさか降るとは思わず、傘の用意もない。 視界が効かないあたりを見渡すが、近くに雨宿りできそうなところも無かった。 まいったな、と再び呟き、道の向こうに確かあった電話ボックスまで、雨に濡れる覚悟を固めているところに、車がきた。 町が運営するコミュニティタクシーだ。 助かった、と乗り込む。 良かったです、あのままでは雨に佇むことになりました、と声をかけると、人の良さそうな笑顔の運転手が、大変でしたねぇ、と労ってくれた。 とりあえず、駅まで。駅ビルのショッピングセンターで雨が止むのを待って、歩いて帰ろう。 道すがら、運転手は話をした。町の交通機関のこと、道路の舗装の話、町の役員だったが退職して運転手をしているとのこと、町の観光スポット、小さな石仏の話。 この町にはあちこちに小さな石仏があるということだった。いつからあるのか、誰が造ったのか、何を祀っているのかなど、細かなことはわからない。だが地域の老人を中心に、それぞれの石仏を熱心に拝んでいるらしい。どんなご利益があるのかもよくわからない。 信心深い人が多いんですよ、と運転手はどこか自慢気だった。 まさに葉月が調べていたことだった。 もっと詳しく聞きたいが誰に聞くといいか、と尋ねたところで駅についた。 運転手は、さあて、町の教育委員会かどこかに尋ねるといいんじゃないかねぇ、と答えた。 料金を払ってバスを降りる。町の役所も閉まってる時間だ。メールか電話で尋ねて、今度は役場へ行くことになりそうだ。 糸口は見つかった。 雨はまだ降っている。
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