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「花畑!ちょっと待てよ」と坂本裕太の呼び声で、花畑圭介は振り返った。
「なんだよ、坂本」昇降口に向かおうとしていた花畑は訝しんだ。
花畑と坂本は、取り立てて仲の良い友人というわけではない。たまたま選択授業が重なり、週に2度ほど同じ教室で机を並べる程度だった。
「いいから来いよ」坂本は階段を上ろうと振り返り、仕方なく花畑は着いていった。
電車、逃しちゃうんだけどな、と内心で呟きながら、階段を上がる。
自分たちの学年の教室がある2階を通り越し、上級生たちの階をも通り抜けた。
この先は屋上だ。
「おい、どこ行くんだよ。屋上は鍵が閉まっていて行けないだろ」と呼びかけていると、階段の最上部に着いた。
屋上に通じる扉には鍵がかかっていた、筈だった。
その扉を坂本は難なく開いた。
え、と驚く花畑の目に広がるのは、一面の花畑。
コスモスや萩やススキといった秋の花だけでなく、百日紅やハイビスカスといった夏の花、バラや藤と言った初夏の花、椿やサザンカなどの冬の花もある。足元に咲くのはスミレや菜の花といった春の花だ。
花畑は何処までも広がり、ここが屋上だなんて一瞬忘れるくらいだった。
「どういう、ことだ」自分でも声が掠れるのがわかる。
「お前、気づかないみたいだからさ。残念なことに、俺も一緒なんだけど」
思い出した。俺は坂本の腰を掴みながら落ちたんだ。
選択授業が自習になり、俺は課題をこなしていたんだけど、坂本やその友人たちは騒いでいた。誰かが紙飛行機を飛ばし、それを受け取りながら別の誰かに投げる、という遊びをしていた。
別にいいけど、煩いな、と顔を上げると、逸れた紙飛行機を掴もうと、坂本が窓から乗り出していたところだった。バランスが崩れる。
咄嗟に坂本の腰を引いたが、俺よりも重い坂本を引き上げることなんかできなかった。
「悪かったな、巻き込んで」と顔を伏せる坂本に、「いや、いいんだ。俺、お前と死にたかった」と打ち明けた。
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