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掏摸なんてチャチなものじゃない。強盗なんて品がない。
僕には矜持がある。
狙うのは大富豪だ。どんなセキュリティだろうが、下調べや準備を怠らず、完璧なプランを立て、誰にも気づかれることなく侵入して盗みだす。相手は大金持ちだから、少しぐらい無くなっても気にもされない。去るときも僅かな跡も残さない。相手は盗まれたことにすら気づかれない。
盗んだものを売るのだって足がつくようなヘマはしない。どだい売る相手だって後ろ暗いんだ。こちらを検索することもない。
そんなことを続けているから、もうだいぶ稼いできた。ただ生きていくだけなら、死んだあとに一財産残せる程には稼いでいる。盗みに入る準備をしても道具にしても、資金繰りに苦労もない。あまり派手な資金運営なんて足がついて危ないからやらないけど、そもそも必要がない。
普通ならば、生きていくためだけならば、安穏としていればいいはずなのだが、僕はまだ盗みを続けている。
誰かに頼まれるわけでもない。金持ちに怒りや恨みがあるわけでもない。社会なんてどうだっていい。そもそも、盗むことだってそんなに好きなわけではないのだ。
自分でも不思議なのだが、特段の理由もなく富豪をピックアップして下調べも十分にして完璧な計画を立てて実行する。
その日もそんな盗みを行うべく屋敷に侵入していた。室外機の調子が悪いことは下調べでわかっていたから、社員証を偽造してエアコンの修理を名目に侵入した。僕に対応したのは大柄の男で、事前に入手した名簿からその男が執事であることがわかっていた。
該当の部屋に通され、調子が悪いエアコンを示され、僕は一人で作業をした。エアコンの電源にカメラを仕掛け、エアコンは完璧に直した。
あとは1週間ほどカメラを監視して、従業員が少なくなるタイミングで再度侵入するだけだ。逃走経路も確認した。
修理が終わり退散しようと廊下に出ると、少女がいた。豪奢な屋敷の造りに似つかわしくない、素朴で草臥れた生地の白いワンピース一枚を身に着けていた。髪は梳かされているがそのままで、緩くウェーブがかかって背中ぐらいまでの薄茶色をしていた。
緑の目が真っ直ぐ僕を見つめる。
瞬間駆け込んできて僕に小声で訴えた。
「私を連れて行って、この家から出して!」
面食らった僕は少女を軽く押し戻し、そのまま退散した。
1週間後、従業員の会話や動きから屋敷が手薄になるタイミングを計り、僕は再び侵入した。盗むものはもう決めている。
部屋にはあの少女がいた。
用意した大袋に彼女を入れ、誰にも気づかれることなく屋敷をあとにした。
流石に彼女がいなくなったことには気づかれただろう。
それから、僕は盗みをすることなく、彼女と暮らしている。
あんなに盗みを繰り返していたのに、ぱったりとやめてしまうとは。本当に欲しかったのは形の無いものだったのか。
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