きっと明日も

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硝煙の匂いに包まれていた。あちこちで着弾の音がする。絶え間ない銃声。目の前の男が地雷で吹き飛び、隣にいた男も頭に銃撃を受けて崩れ落ちていった。 それでも部隊は前進していた。 イアンには夢があった。貧しいながらも父母の働きでなんとかカレッジへ上がれたけれども、弟妹もいるので、これ以上無理はさせられない。なんとかカレッジで技術を身に着けて、少しでも家を楽にできたら。イアンは溶接が好きであった。この道に進めれば、と考えていた。軍に志願すれば学費が免除になると知り、入隊したのは6月だった。それまで猟銃にすら触れたこともなかったのに、わずか2ヶ月で最前線に送られていた。 なんとか生き残る。生き残ってカレッジに戻る。その一念だった。物陰に隠れて時折発砲する。相手に当たっているのかいないのかもわからない銃撃。当たれば相手も無事ではない、死ぬかもしれない。彼らにも夢はあるだろうに。 そうしてしばらく拮抗していたが、ふと攻撃が弱まってきた。この機を逃さないと判断されたのだろう、前進の指示が出た。拮抗しては前進し、また拮抗しては前進し。いったい何処まで進むのか、何処までいったら終わるのか。 夜になれば野営をし、僅かな食料が支給されて一休みができる。配属されてから同じ日常。入隊する前の日々が遠いようだ。毎日が苦しくて、きっと明日も苦しいだろう。だが生き延びて戻るのだ、あの日々へ。 そこでイアンの意識は途絶えた。
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