問3

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「ハーちゃん……ごめんね。弱気になっちゃって」 『ーー……』 「強い心を持て……か」 肩に乗せられた手に手を重ね、深くため息を吐く。 『ーー……?』 「分かってるんだ。でもね……」 声は聞こえないが、よくよく感覚を研ぎ澄ませば何か話しかけているような振動が、肩に置かれた手を通して伝わってくる。 私は、人ならざるもの達を〈 触覚・味覚 〉で捉えることができるという、霊能力としても歪なチカラを持っていた。 歪ながらも確かに持っている霊力が誘引剤となるのか、周りを漂う霊や未練に囚われた悪霊に近いもの達を次々に引き寄せてしまう体質なのだ。 そんな身体になってしまった理由。 このチカラに目覚めてしまった理由を今一度、思い出す。私のトラウマとも呼べる体験。 「がどうしても拭い切れてないんだ、私……」 目を閉じる。思い出されるのは幼い日の記憶。 『皆にとって全てが始まった日の記憶』 灰塚望桃、大林賢治、瀬田祐奈、そして私の未来の分岐点にして、私の歪んだの物語の始まりとなった記憶。 その時、私が体験したのは眼前に迫り来る“無数の黒い手”だった。 殴り合いとも呼べない一方的な暴力の末、気絶した賢治と祐奈を中心に“その黒い無数の手”は現れた。 その手は周りにいた、いじめっ子たちや私を掴むと四肢に絡みついた。 幼い私は他の者達と共に、軽々と宙へと引き上げられ、そのまま絡みついた四肢を引きちぎらんばかりに四方に引き始める。 手足からビキビキと嫌な音が響き、痛みが走る。 恐ろしさと痛みで私は泣き叫ぶ。 周りでは私と同じように、いじめっ子たちの絶望と懺悔に満ちた叫びが木霊していた。 まさに地獄の刑罰のようだった。 もうダメだ……死ぬ……殺される……!! その時の恐怖は高校生まで成長した今でも、この身体に残っているのだ。 「あの手……あの掴まれた感触……あの引きちぎられそうになった痛みと恐怖は今でも私の身体に染み付いてる……」 『ーー……』 「こんなの簡単に克服なんてできるわけないよ……」 望桃と図書館で別れ、呆然とした頭で帰宅してから一時間ほど経ったか。私は電気も付け忘れた薄暗い部屋で一人、膝を抱えて布団を被りベットの上で丸くなっていた。 そんな自分を心配してか、その被った布団ごと、ハーちゃんに抱きしめられている状態だった。
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