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「あ゛ぁー……買っちゃった。どうしよう……。やっぱり今回はいつも通りの格好じゃだめ?」
「デートに着ないと、試着の写真をバ先でばら撒きます」
「女子高生とは思えないエグい脅し文句ですね!?わかったよぉ、着るよぉ」
「大丈夫ですって!同性から見ても、めっちゃくちゃ似合ってましたから」
「う、うーん……」
ミサキさんの手を取り、さらに色んな場所を巡る。初デートでいきなり急な進展とかはないだろうけど、一応念の為と下着もチョイス。似合いそうなものを選んで投げ渡すと、ミサキさんは顔を真っ赤にして泡を吹き始めた。
今度から“茹でガニ先輩”と呼ぼうかな。
その後も散々ミサキさんを連れ回し、着せ替え人形にして遊んだ。久しぶりにこんなに伸び伸びと遊んだ気がする。
「はぁ~~!満足満足!」
フードコートでタピオカを飲みながら、今日の成果を店長にRAINで報告を送る。楽しみにしててくださいね!と送ると、店長から「めっちゃくちゃ楽しみ!」と絵文字付きで返ってきた。結果報告が楽しみだねー。
よし、これで役目は果たしたな。とミサキさんに目を向ける。
「(チーーン……)」
たくさんの荷物に囲まれ、真っ白に燃え尽きたミサキさんが椅子に座ったまま動かない。
指先で突っついてみたが反応がない。『ただのしかばねのようだ』と、不穏なことをハーちゃんが言ってるけど、勝手に殺さないであげてほしい。
「ミサキさん?大丈夫ですか?」
「あ゛ぁ~~。足腰来てる。年齢の壁を感じるわぁ」
「またまた、おじさんみたいなこと言ってー。そんな、私と年齢変わんないじゃないですか」
「変わるよぉ。一歳で五キロの重りが乗っかるんだよ」
「無理ができるのも今のうちだけだよ」なんて、ほんとおじさんみたいなことを言って、ミサキさんはタピオカに口をつける。
言ってることはおじさんだが、その見た目は間違いなく私たちと同い年に見えた。
「それで?ミサキさん、あれから進展あったんですか?」
「いや……昨日一緒にシフト入ったけど、普通だったね。ギクシャクしなかっただけ助かったけど。なんかねー。今でも夢見てた気分だよ……」
タピオカのストローについた雫を指で撫で、物鬱げな表情を浮かべてため息を漏らす。
あぁ……恋する女子って感じでいいなぁなんて思っていると話しは続く。
「私さ。店長のこと最初は苦手だったんだ。優男が服きて歩いてるような感じでさ。ナンパなヤツっぽく見えてなんか嫌だった」
「あー。まぁ、そんなとこもありますよね」
よく言えば柔軟性があるというか、悪く言えば八方美人というか。誰にでも優しく褒めていくスタイルなのか、怒っている姿はあまり目にしたことは無かった気がする。褒めて伸ばすをモットーにやってます的な?
「でも、あの時もそうだけど、急に男を見せる時があるの。困った時とか辛い時とか。気がついたら側に来てくれてなんて事ない風に、パパッ助けてくれるの。その姿が昔テレビで観たヒーローみたいでさ。カッコよくて。そんな店長に、いつの間にか惹かれ初めて……」
少しの間。ミサキさんは顔を真っ赤してため息を吐いて頭を抱え始めた。
「そしたら、この前のさぁー。さらに男らしいところ見ちゃって。完全に惚れちゃった。それで、あの告白でしょ?あんなの反則だよぉー」
「あはは……。まぁ、あんな熱烈な告白されちゃ誰だってクラッと来ちゃいますよね」
今一度思い返しても、あれほど一途で熱い告白はドラマや映画でしか見たことがない。あんなの間近で言われたら、私でもつい頷いてしまうだろう。
「店長、実はイケメンですしね」
「そうなんだよぉ。顔がいいんだ。でも、それ以上に抱きしめれた時の感じもよかったんだょ……」
顔を隠してバタバタと足を鳴らして身悶えるミサキさん。あの比較的ダウナー系なお姉さんが、全力で恋している姿は何とも微笑ましくも、見ているこっちまでむず痒くなってくる。
まぁ、あんなことがあったあとなので、“男からの好意”はしばらく遠慮しておきたい。
特におじさんからは……。
「そういえば、真木さんは?あのヒーローとは付き合わないの?」
「ヒーロー……。あぁ、賢治くんですか?いや、彼はなんと言うか友達みたいな?特別な感情とかないんで」
「そうなの?すごくいい雰囲気みたいだったけどね」
「ほんと、そんなんじゃないんですよ……」
自分で言っておいて、チクリと胸を刺すものを感じて、思わず胸に手が伸びる。
別に何か刺さっているわけじゃない。
だけど、何だか今まで感じたことのないモヤモヤとしたものが生まれた気がした。
『ふむ……』
そんな様子を後ろで見ていたアカネが、小さく呻き眉間に皺を寄せたことに私は気が付かなかった。
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