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4 公爵令嬢と裏ルート攻略対象者
「呼んだ?」
そう返事をしながらソファーの向こうに、フニャリと笑うブルーの瞳に金髪の造作の良い顔が見えた。
ご近所に住んでいるフラメア侯爵家の嫡男で、名前はレイモンド。
彼女より8歳年上の25歳だがやや童顔寄りなので実年齢よりかなり若く見えるのが特徴だ。
優秀な王宮文官で宰相補佐官でもある。
「え、そろそろだから? リアが卒業したからヒロインが王子に付き纏い始めるんだろ?」
特筆すべき情報は彼女と同じ転生者という所。
「私が4年生になったらだからね。
但しもう既に飛び級卒業しちゃったから、時期がズレるかも。
あそうそう聞いて聞いて、とうとう王子が『距離を置こう』とか言い出したのよ~ ウケる~」
「え。マジ?」
「うん、キラキラ笑顔で卒業迄ヨロシク~ みたいな感じで言いくさったわ、下半身王子様め」
いい笑顔で答えるリアーヌ嬢。
言ってる内容に耳さえ塞げば、美の女神。
「いや、まだ大丈夫っしょ。下半身はこの時期には攻略されてないはずだからさ。
確か新学期始まって半年後の王子の生誕祭辺りで、空き教室でヒロインが王子をイタダキマスしたんじゃなかったっけ?」
ウ~ン、と頭を掻いた後でソファーに座り直すと、その長い脚を組みつつ天井に視線を向けるレイモンド。
教会の天井画の天使の如く爽やかな美貌の彼は、宰相補佐官という忙しい役職のせいなのか、今だに婚約者どころか見合いの話すらリアーヌは聞いたことがない。
最近は騎士団と共に宰相府が貴族絡みの犯罪事件を追っているらしく、どちらの部署でも引っ張りだこの彼は若干草臥れて見えてしまうのは気のせいでは無いだろう。
「そうね。まだD神に愛されてるチェリー君だったわ」
「だろ」
二人共真剣な顔だが、王子もヒロインもクソ味噌な言われよう。
部屋に防音魔法をかけドアには結界を張って誰にも聞こえないように配慮しているとはいえ、とてもじゃないが知らない人間に聞かれたら卒倒されるだろう。
何しろ2人揃って清廉潔白、性格は非常に温厚で理想の高位貴族の子息子女として有名だからだ。
――リアーヌもレイモンドも基本的に自分が面白いと感じなければ動きたくないので、関心のない相手には笑顔で牽制するのを相手が勝手に勘違いして舞い上がるだけなのだが・・・
権力のある美人達は得である。
×××
「ねえ、レイはどうするの?」
唐突だが、王子とヒロインの18禁行為に関する話題から自分に話を振られて思わずきょとんとするレイモンド。
「どうって?」
「だってアナタ、攻略対象じゃないの」
「あーまぁ、そういやそうだったねえ。裏ルートだったっけか?」
「そうよ」
「まだ良くわからんなぁ実感もないし。しかも相手は美少女かも知れないが15歳だろ?
俺は未成年に手を出して世間からロリコンと罵られ新聞記事の一面を飾る趣味はない」
「この世界は16歳で成人よ」
「まーな。前世の日本は18歳が成人だったけどな」
「王子とヒロインがくっついたら、レイの出番もすぐなんだけど・・・
王子の魔術護衛官じゃなくて宰相補佐官になっちゃったから、どうなるのかが全然わかんないのよね」
彼自身は転生者だがゲーム自体の事はリアーヌに教えられるまで知らなかったので、攻略対象者であることをちょくちょく忘れていたりする。
「俺がリアーヌを見つけた時もそんなこと言ってたよなぁ」
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