5 レイモンド・フラメア侯爵子息①〜過去

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5 レイモンド・フラメア侯爵子息①〜過去

 『はぁ~・・・かったりぃ。  荷物くらいテメーらで運べや・・・』  学園卒業後、文官としての城勤めが始まったレイモンドは本日付で宰相補佐官候補として配置替えがあったばかりだった。  今は先輩達にアレコレ雑用を言いつけられ、若干腐りながら王城の図書館内にある資料室に向かっている最中だ。  尤もいくら内心辟易として額に見えない縦線が入っていても『天使のスマイル』を披露すれば、周りは良いように捉えるお陰でちょっと仕事で疲れてるだけか、くらいで流してくれるので大して困ったことにはならず概ね順調に人間関係を構築している。  レイモンドにとって人生は実にチョロかった。  ×××  フラメア侯爵家は代々騎士を輩出する家系であり、どちらかと云うと男子は騎士として王家に士官する事が多かったのだがレイモンドは何故か文官職という変わり種だ。  父親は彼に騎士の道を強要してきたが、彼自身は騎士になりたい気持ちなんぞミジンコほどのサイズも心の中に存在しておらず、当然だが父親とは早くから対立した。  自分が転生者だと生まれながらにぼんやり知っていた彼は前世では女性にやたら囲まれていたな~という記憶しかなかったが、それ故に女性を自分の味方に付けるのは幼い頃から得意だったので、自分の進路に口出ししてくる先代当主や父親の意見をねじ伏せるだけの協力者も手に入れていた。    母と祖母と伯母だ。  可愛い孫、愛らしい息子、甘えん坊の甥は天使もかくやの美貌で彼女達のお気に入り。  その彼が『騎士にはなりたくないよ』と涙ながらに彼女達に訴えたのである。  実に小悪魔な所業だった。  小競り合いは学園通学中も続いていたが概ね女性連合の圧勝だったがので平和だった。  しかし卒業が近づくと父と祖父は騎士を選べと手段を実力行使に移行してきた為、事あるごとにコテンパンにておいた。  そう、彼は剣の才能があった。  故に父親達は諦めきれなかったのである。  剣の腕もさることながら魔法もちゃっかり使えるので身体強化――世間には内緒――なんかも使い、筋肉達磨の祖父と父親を軽々と持ち上げると庭の木に日替わりで宙吊りにした。  卒業間際は二人同時に襲ってきたので樫の木の天辺に運んで逆さに吊って三日三晩放置しておいた・・・  騎士になって父親達みたいにマッチョゴリラになるのは気が向かなかったし、王宮魔法使いとして士官するのはかったるかったので、選んだのが文官職だったのだが勿論祖父と父親は文句は言って来なかった。  因みに神殿での魔力検査は力を抑えて発動させ魔力は中級――貴族なら中級程度の魔力保持者はザラにいる――と世間には認識させていたので魔法省からのオファーはなかった。  まあ手を抜かずに首席卒業すれば文句もなかろうと勉学に本気で取り組んでしまった結果、宰相閣下に目を付けられてしまったのは誤算だったが・・・  ×××  レイモンドは、資料を返すためにやって来た図書館の禁忌書庫が開いていたのに気がついてギョッとして立ち止まることになる。  普段なら絶対に開かないそこは、王族か公爵の当主クラスしか入れない場所だが、魔法誓約が仕組まれた利用を制限された本――つまり扱えるだけの魔力が無いと開かない仕掛けをされた魔術本ばかりが並んでいる為、ドアが開いているのを見たことがなかったのだ。  そんな場所で見るからに格式高い閲覧テーブルに広げた本に向かい夢中になって古書を見つめている少女。  それがリアーヌとの出会いだった。    
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