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1 公爵令嬢と王子様
その日は婚約者同士の定例のお茶会の日で。
抜けるような青空の下、庭園に構えられた白いレース製のクロスを掛けられたテーブルを挟み彼と向かい合わせに座って、優雅なカーブを描く茶器に口を運んだけれど婚約者が放ったその言葉で動きが止まってしまったのは仕方が無いだろう。
「私が学園に通う間でいいんだよ。
君との付き合いに少し距離を置きたいと思うんだ」
秀麗なその顔に笑顔を浮かべて彼――ハロルド王子―― は確かにそう言った。
×××
リアーヌ・コンフォートはこの国の公爵家の御令嬢で17歳――今年の年末に18歳となる。
その可憐さと社交力、そして王宮講師達を唸らせるほどの学力の高さを有しており、幼い頃からの英才教育で主要10カ国語を操る才女として知られていた。
王都にある貴族学園を今年飛び級で卒業したのでもうそろそろ諦めて本格的な王子妃教育を始めようかどうしようか、という段階だった。
彼女の婚約者はこの国の唯一の王子で現在15歳だ。
あと半年ほどで16歳になり成人する。
彼女の様に飛び級はせず、じっくり学園で交流関係を築く必要があるとの理由もあり彼はあと丸々2年学園に通わなくてはならない・・・のだが。
最近同学年に在籍している美しい男爵家の御令嬢に御執心だともっぱら下位の貴族の間で噂になっていた。
もちろんその噂をリアーヌが知らないわけもなく、殿下の側近候補も一緒になって彼女を何かと気遣っていると聞く。
×××
「あら、殿下。2年間距離を置くとはどういう事ですの?」
彼女が首を傾げると、光沢のある絹糸の束の様な白金色の髪が『サラリ』と音がしそうに揺れる。
「あ、いや。それは言葉の通りで、こういった定例の茶会の回数や、パーティーへの参加とかを極力減らそうかな、と。
君は王子妃教育が始まるから忙しくて大変だろう?」
大きな緑の瞳をパチパチとさせるリアーヌ嬢。
「ええまぁ。ですが・・・教育は」
「いや、私に合わせてスケジュールを空けたりせずに、無理せず王子妃教育を頑張って欲しいだけだからね?」
――ね? ッて言われてもねえ・・・
うむむ、と宙に視線を向けて一瞬考えたリアーヌだったが。
「ええでは、殿下の御心のままに」
と言って、ニコリと微笑んだ――
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