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第一章 君とのプロローグ
俺、羽山悠と、弓月悠はいわゆる幼馴染だった。
知り合ったのは幼稚園だったが、お互いの家の距離は近所といえる距離なので、知らないうちに近くの道やスーパーなんかですれ違っていたかもしれない。
仲良くなったきっかけは最初は親を通じてだった。園児名簿を見たお互いの親が同じ漢字で違う読みの名前の子がいると興味を持ち、家も近く先に親同士で意気投合したことで家族ぐるみの付き合いになった。
幼稚園でもそれ以外の時間でも一緒にいることが当たり前で、お互いのことを「ユウくん」「ハルちゃん」と呼び合うようになるのも自然な流れで、たいして時間もかからなかった。
ハルちゃんに弟が産まれる前後の大変な時期は、ハルちゃんはよく俺の家に預けられていた。そして、母さんは頻繁にハルちゃんの家に掃除や食事などの家事から、産後も育児の手伝いに行っていた。
遠方に住む俺の父方の祖母が病気で入院して両親がお見舞いに行ったときは、ハルちゃんの家に預けられたりもした。
俺にとって、大げさでもなんでもなくハルちゃんの家はもう一つの家で、ハルちゃんの両親や三つ下のハルちゃんの弟の翔とも本当の家族のような距離感だった。
それはハルちゃんにとってもきっと同じ感覚で、母さんはハルちゃんを本当の娘かのようにかわいがり、ハルちゃんのお母さんを入れて三人でよくお菓子を作ってお茶をしていた。
そして、俺は翔とよくゲームをして遊んだり、翔も混じって俺の友達たちとサッカーをしたりしていた。ハルちゃんの家でハルちゃんのお父さんと夜更かしをしてサッカーの代表戦や海外サッカーの試合を観たりもした。
ハルちゃんのお父さんは多趣味で楽しい人で、俺の父さんは真面目一辺倒の人だと思っていたけど、父さんが自然あふれる田舎出身ということでアウトドアという共通項があり、庭に張ったタープの下でコーヒーやお酒を飲んでのんびりとしたり、休日は二家族合同でバーべーキューや遠出をしてキャンプや釣りをしたりもした。
いつでもどこでも笑顔に満ち、笑い声が響いているような楽しい日々だった。
だから、俺もハルちゃんもお互いに純粋な「好き」という言葉を言い合った。
その「好き」にはきっと、友達・家族・異性という境目は曖昧で。
そのなかでハルちゃんは「おおきくなったら、お父さんとケッコンする」と言うように、「ぜったいユウくんのおヨメさんになるんだ」と、まだ柔らかで少しませた感情の矛先を真っ直ぐにぶつけてくれた。
俺もそれが嬉しくて、そうなるといいなと思っていた。
しかし、成長していくにつれ、何も知らずにいられた子供のころの距離感や言葉の数々にお互いに少し恥ずかしさを感じるようになった。それでも、離れるということはなく、ずっと一緒に育ってきた。
隣にハルちゃんがいるということは当たり前のことで、それだけはこの先も変わることがないと信じていた――。
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