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外された腕を、サイドテーブルに伸ばした。
そこにあったスマホを手に取ると、両手打ちの最速スピードで、
『声が出ないだけ。全然平気よ』
と打ち込む。
画面を返して龍一にみせてやった。
「声が出ない?」
ようやく状況を理解してもらえたことにホッとして、
『うんうん』
とうなずく。
正確にはまったく声が出ないわけではなく、出そうとすればひどいガラガラ声が出るだけだ。
あんなみっともない声は、龍一には聞かせられない。
すると龍一は、
「精神的負担が影響しているのかもしれない」
なんてことを言いだして、右手で左肘を掴み、左手の指を唇に触れさせて考え込んだ。
『待って、待って、待って』
また高速打ちだ。
『精神的負担なんてないわよ。ただの風邪。心配いらない』
そんな文字を見せてもあまり反応がないので、目の前でラジオ体操第一を披露してみせた。
たっぷり最後の深呼吸が終わってから、ようやく龍一は、
「わかった」
と言ってくれた。
「脳神経内科の医者も呼ぼう」
何もわかってなーい!
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