1,風邪っぴき

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外された腕を、サイドテーブルに伸ばした。 そこにあったスマホを手に取ると、両手打ちの最速スピードで、 『声が出ないだけ。全然平気よ』 と打ち込む。 画面を返して龍一にみせてやった。 「声が出ない?」 ようやく状況を理解してもらえたことにホッとして、 『うんうん』 とうなずく。 正確にはまったく声が出ないわけではなく、出そうとすればひどいガラガラ声が出るだけだ。 あんなみっともない声は、龍一には聞かせられない。 すると龍一は、 「精神的負担が影響しているのかもしれない」 なんてことを言いだして、右手で左肘を掴み、左手の指を唇に触れさせて考え込んだ。 『待って、待って、待って』 また高速打ちだ。 『精神的負担なんてないわよ。ただの風邪。心配いらない』 そんな文字を見せてもあまり反応がないので、目の前でラジオ体操第一を披露してみせた。 たっぷり最後の深呼吸が終わってから、ようやく龍一は、 「わかった」 と言ってくれた。 「脳神経内科の医者も呼ぼう」 何もわかってなーい!
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