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プロローグ
とても素晴らしいお席だった。
ステージを見下ろせる二階個室テラス席。
両サイドの壁を飾るのは、厚手で柔らかい色のカーテンで、個室の狭苦しさを感じさせない。
ふかふかでゆったりしたシングルソファーの隣のサイドテーブルには、よく冷えたシャンパン付きだ。
この席に案内された時、美百合は、まるでお城のお姫様になったようで気分が弾んだものだ。
その上、降るような拍手で迎えられたコンダクターは、一番最初にこちらに顔を向けて挨拶してくれた。
特別席なのだ。
そして、そんなお席も始まったコンサートも、何もかも完璧だった。
だけど、クラッシックコンサートというのは、どうしてこうも眠気に襲われるものだろうか。
一曲一曲がとても長いし、終わったと思えば、すぐに次楽章が始まったりする。
美百合は、どうにも眠気に耐えられなくなってきた。
隣に座る龍一は、と窺い見れば、これを着て生まれたんじゃないかと思うほど、身についたタキシード姿。
立てた肘に顎を乗せ、長い足を組んで、うっとりと曲に身を委ねている。
存在そのものが奇跡のように美しい。
ただ音楽を聴いているだけなのに、こんなに絵になる人は他にいない。
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