プロローグ

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結婚して毎日を一緒に過ごす美百合ですら、時々、この人の顔はCGで描いてるんじゃないかと思ったりする。 それくらい完璧で、現実味のない龍一の美貌のお陰で、一瞬だけ、美百合の眠気は飛んでくれた。 見惚れた、というやつである。 だけど、まだまだ続くα波の波に、またすぐに(まぶた)が重くなってきた。 首がもげるくらいに大きく『こっくり』してしまい、美百合は、 『これはダメだ』 と諦めた。 龍一を覗えば、幸いなことに美百合の涙ぐましい戦いには気づいていない。 目を閉じて、曲に集中している。 このコンサートは、出不精な龍一がめずらしく率先してチケットを取ってくれたもの。 なんでも、曲を率いるコンダクターの引退記念公演らしい。 ファンなのだろうか。 龍一は、指揮者が生みだす音を一音も聞き逃すまいとするように、軽く目を閉じている。 その隙に、美百合はそっと席を立った。 ふかふかの絨毯のお陰で、ヒールの音も鳴ることはない。 ホワイエに出ると、自然に大きな息が漏れた。 「肩こったわぁ」 正直すぎる感想である。
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