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思っていたよりも早く、龍一は下着売り場に戻ってきた。
店員に下着を見せてもらっていた美百合は、
「龍一」
と名前を呼びそうになって、慌てて口を閉じる。
実は、もうたっぷりと店員たちとしゃべっていた。
元々しゃべれないわけではないのだ。
美百合は、龍一が行ってしまった後、店舗で、
「他の客を追い払って」
と尊大に言い放った。
「気に入ったら、この店のものを全部買うから、だからみんな、せいぜい私が気に入るように振る舞ってね」
自分でもうんざりするくらいイヤな態度だが、店員たちは引きつった笑みを浮かべながらも、言うとおりにしてくれた。
他の客たちに頭をさげて店舗から出ていってもらう。
以前龍一が、店舗どころでなく、デパート一棟まるごと貸し切ってしまったことを、店員たちは覚えているのだ。
あの時も美百合は冷たい汗をかいたが、今度は脂汗が出てくる。
自分がこんな態度をとるなんて、考えたこともなかった。
でも美百合は、顎をあげて言った。
「店の商品全部、順番に持ってきてちょうだい」
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