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5,エピローグ
龍一が戻ってきた頃にはすっかり、美百合の体も声を出すことを思い出したようで、店員ともかなりスムーズに話せていた。
だけど、まだ龍一に聞かせるにはみっともない気がすると、名前を呼ぶのを堪えたのに、
「せっかく頑張ったのに、おかえりも言ってもらえないのか」
龍一が大げさに嘆いてみせた。
「もしかして俺は邪魔者だったか?」
恨めしげに、さっきまで美百合を囲んでいた店員たちの方を見る。
仕方なく小声で、
「おかえりなさい」
と言った。
やはり元通りの声とは言いがたいが、それでもずいぶんなめらかな声がでた。
きっともう少し待てば、ちゃんと治っていただろうにと、美百合は残念に思う。
結局、龍一にみっともない声を聞かせることになってしまった。
だけど龍一は、
「久しぶりに美百合の声が聞けてうれしいよ」
そう言って、美百合の頭をくるっと撫でてくれた。
まるで子ども扱いだと、恨めしげに目をあげると、龍一はとびきりの笑顔を浮かべていた。
おそらく、美百合がしゃべれることぐらい、龍一はとっくに気がついていたのではないかと思う。
だけど美百合が話そうとしなかったから、辛抱強く待っていてくれた。
美百合の声が聞けてうれしいと言った気持ちに嘘は感じなかった。
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