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公衆の面前なのに距離が近すぎて、美百合はそっと龍一の胸を押した。
「もういいって言ってるでしょ」
「俺を許してくれるのか?」
許しを請うているクセに、龍一の表情は余裕たっぷりだ。
照れて恥ずかしがっているのを、よくわかっている顔。
美百合は精一杯の意地で顔をあげ胸を張った。
「このお店のパンツ、いっぱい買ってよね」
「約束しただろう。店ごと買い取ってやる」
龍一は甘く請け負ってくれて、それから言った。
「美百合の言うことなら何でもきいてやる。だからそろそろ思い出してくれ。あいつらとはどこで出会った」
「ーーへ?」
顔をあげると、龍一は、聞こえてきはじめたパトカーのサイレン音を顎で示した。
「俺に記憶がないなら美百合の方にあるはずだ。エレベーターの中でも心当たりがある顔をしていただろう」
言われて記憶を辿ると、確かにエレベーターにいた男女を見たときに覚えたデジャブ。
「あいつらと、どこで会ってる」
「え、えーとえーと」
責められたって、すぐには思い出せない。
龍一は言った。
「あいつらは懐に覚醒剤を所持していた。あんな上物の取引はなかなか行われない。これまで捜査上にのぼらなかった大物が出てくる可能性がある。時価数億円規模の取引だ」
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