5,エピローグ

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数億円規模という値段を聞いて、美百合ははたと、先週龍一に連れられて行った絢爛豪華なクラッシックコンサートを思い出した。 有名指揮者の引退公演ということで、ボックス席でなくとも、ひと席何万円もする、高級コンサート。 客たちもタキシードやドレスといった正装で着飾っていた。 でもそんな中に、衣装が身につかず、着せられた感満載のカップルがいたのを思い出した。 眠気に負けてコンサートホールを出た美百合と、鉢合わせしてしまった客たちだ。 曲の途中でホワイエに出てきた美百合を見て慌てた様子をみせた。 まずいものを見られたと、何かを隠した? あの時の男女が、エレベーターの中で待ち伏せしていたヤツらと同じだったのか。 洋服の印象が違いすぎて断言はできないが、そう考えれば、そうだとしか思えなくなってくる。 あいつらは、クラッシックコンサートの会場で麻薬の取引を行っていたというのか。 では今回の事件の発端は、美百合だったのか? あいつらの狙いは龍一ではなく、取引現場を目撃してしまった美百合の方!? 「美百合、思い出したか?」 察しのいい龍一が聞いてきたが、美百合は、シラを切ることにした。 だって美百合は、あのとき、ホワイエの男女をいぶかしむどころか、アウェイでようやく出会えたお仲間への共感で、思い切り微笑みかけてしまったのだ。 そんなこと龍一にバレたら、確実にバカにされる。
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