1,風邪っぴき

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1,風邪っぴき

朝起きると、美百合の声が出なくなっていた。 昨夜から喉の調子がおかしいなと思ってはいたが、まさかこんな風になるなんて考えてもみなかった。 無理やりしゃべろうと思えばしゃべれる。 だけど喉から出るのは、まさにカエルを潰したようなガラガラ声だ。 痛みはあまり感じないが、上から潰されたような圧迫感がある。 腫れているのだろうか。 「どうした?」 異変を察知したらしい龍一が、洗面所のドアをノックした。 放置すると強引に押し入って来るので、慌ててドアを開け、 『なんでもない』 と首を振ってみせる。 「美百合?」 もちろん、龍一が納得するわけもなく、怪訝そうに顔を覗き込んできた。 仕方なく、喉の辺りを押さえて、肩をすくめた。 龍一がよくやる仕草だが、龍一のように(さま)になっているかどうかはわからない。 すると龍一はサッと顔色を変えた。 「どこか具合が悪いのか」 美百合は『ううん』とまた首を振って、 『ちょっと喉の調子が悪いだけ』 と口パクで伝えようとするが、 「すぐにベッドへ戻れ。医者を呼ぶ」 膝をすくうようにして抱き上げられた。
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