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「ねぇ……ぼく、ネズミなんだけど……」
樹洞の内部では、可愛らしい声が響いた。
「ああ……知っているよ。正確にいうと、アカネズミだな。シマフクロウさんから、教えてもらった。……だから、ここに来てもらったんだ」
私は首をくるっと曲げて、返答した。
「そぉ? わかってるなら、いいや。……あのね、ぼくね、カフェやろうと思ってるんだ」
喋ろ、と命じてはいなかったが、小さなものは言った。
「……ん? カフェ……ってのは、何かを客に飲ませるところかい?」
にやりとした私が聞いてやると、生きのいいネズミはうなずいた。
「そうそう。……コーヒーとかココアとか紅茶なんかを淹れてね、お客さんに出すんだよ。そのお店をこの森でやるの!」
「…………ほほう。それは、それは……。大きな夢だなぁ……」
私はネズミに返しながら、住み処の出入り口の前まで移動した。
外からの光が射し込んでくる逃げ道を塞いでやったのだ。
ちょこまか動き回ったにしても、これでもう外へは逃げられんだろう。
「そうなんだ。ぼくの身体よりも大きい夢だよ! えへへ……ぼくね、何日か前にね、遠くの森から引っ越してきたんだ」
「ほ〜う。……一匹で来たのかい? ……親兄弟も一緒に?」
私はもう食われて絶命するだけのネズミの話を聞いてやった。
「ううん、ぼくだけで。……おとーさんもおかーさんも、ぼくのお兄ちゃんとお姉ちゃんも、大きな生き物に食べられてしまったんだって……おじーちゃんが言ってた。……その、おじーちゃんが亡くなったから、それで……」
少しうつむき加減になったネズミに私はなぜか心が動かされた。
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