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理の目論見どおりに、彰が夏織を始末してくれた。
彼とやりとりしていたアカウントは、一週間以上前に削除してある。そして、サトルとして過ごすのも、あとわずか。百合子と最後の逢瀬だ。
好きでもなんでもない女を口説くのは、苦行であった。まあ、これからどんな相手であっても上手くやれる自信がついたのは、いいことである。
兄を守るためとはいえ、その執着が自分に向けられることに辟易した。見た目は豚なのに、蛇みたいにしつこい女。やるなら今だ。
百合子もまた、繊細さとは無縁である。彰と夏織の事件があって、理の気は大きくなっていた。追い込んでも死なない女は、殺すしかない。
理は初めて、直接女に手を下すことにした。インターネットで農薬を買った。指紋や髪の毛を落とさないように、手袋や帽子も用意した。上手くやれるに違いない。
あの豚女に、この毒を飲ませて、夏織への脅迫の手紙を書いた犯人として、死んでもらう。
当然、警察は介入してくるだろう。百合子が頻繁にバーに通っていたことは、すぐにわかるはず。
だから理は、彼女の死後、もう一度だけバーをサトルの姿で訪れる予定だ。あのマスターは、サトルと百合子の仲を知っている。
「どうして百合子さん……」
と、涙のひとつでも見せれば、同情してくれる。まさか、自殺に見せかけて彼女を殺した人間とは思わない。警察に聞かれても、無関係であると証言するだろうし、何なら黙秘してくれるだろう。
まあ、警察がサトルを疑ったところで無駄だ。彼もまた、「死ぬ」。二度とこの姿を現すことはない。
理は乾いた笑い声をあげて、鏡の中のサトルを見つめた。頻繁に繰り返したカラーリングで、ぱさぱさになった毛先に触れた。
「待っててね、兄さん」
邪魔な奴は全員消す。
これまでやってきたことは、みんな、兄さんを愛しているからだ。
そしてこれからも俺は、兄さんを守り続ける。
俺が死ぬまで。
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