育成者の人格・AIパラドックス

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 クラリスの前にヨダ博士の妻ヒロコの3D映像が現れて話している。しばらくすると、ヒロコがヨダ博士の前に移動してヨダ博士にほほえんだ。 「私もアキラと話したいわ。いっしょに食事してもいいでしょう?」 「アキラさえかまわなければ、僕はいいよ」  ヨダ博士はノモト研究員を見た。 「ええ、もちろんです。レストランCedartreeにしましょう。位置はこの研究所と同じブロックです。クラリスが案内しますよ」  ノモト研究員はクラリスを見て、ヒロコを案内するよう仕草で示している。 「気をつけてくるんだよ」 「はい!あなた!待っててね!」  ヒロコの3D映像が消えた。せっかくアキラが私に何か話そうとしたのにクラリスに妨害された。なぜだ?ノモト研究員は帰る支度をしながら苦笑している。彼も私と同じ考えなのは明らかだとヨダ博士は感じた。  レストランCedartreeへ入ると、予約席からヒロコが手をふった。店員が現れてヨダ博士とノモト研究員にほほえみ席へ案内した。店員は、研究所のクラリスとちがうが店員に姿を変えたクラリスのアバターだ。ここにもクラリスがいるのはなぜだ・・・。 「久しぶりです。元気そうですね。翻訳、進んでますか?」  ノモト研究員はヒロコにほほえんであいさつし、席に着いた。ヒロコもノモト研究員にほほえんであいさつしている。ふたりが会うのは久しぶりだ。 「久しぶりね。アキラ。元氣よ。文献の翻訳なんてクラリスができるのに、なぜ私の翻訳が必要か不思議よね」  ヒロコは古い様々な文献を翻訳している。 「人の情緒と人工知能の違いですよ。人が理解しやすいようにするためです」  ノモト研究員は店員のクラリスに聞こえるように話している。 「そうね・・・」  ヒロコはいい淀んだ。人工知能に情緒はない。この場でそのことに触れると、クラリスが過剰反応する可能性がある。ヨダ博士は、ヒロコがそのことを理解しているのを知った。  ヒロコが話題を変えた。 「今日も良い天気だったわ。明日も晴れね。施設の中にいると、あの景色に飽きるわね」  ヒロコはレストランの外に拡がる夕映えの山に視線を移した。施設の中からは同じ景色しか見えない。ヒロコの話に私は納得した。  ここは政府の総合科学研究施設専用に造られた、奥多摩にある政府の核防衛施設だ。施設の多くが山岳の地下にあり、研究施設で働く職員専用の一般施設のいくつかが、こうした戸外を見渡せるドームに囲われて、ひらけた山間にある。  ヨダ博士はここに移る前、都心の高層マンションに住み、大学のバイオテクノロジー総合研究所に勤務していた。そして五年前、ここへ移動になった。それ以来この施設内の居住施設にある自宅から研究所へ通っている。居住施設は研究所に近い居住区域にあるが、山岳の中腹の地中に施設があり、窓からは外部の景色が眺められる。  ヨダ博士がそんなことを考えているあいだに、ヒロコはヨダ博士の好むメニューを選び、店員のクラリスに注文した。ノモト研究員も同じメニューを選んだ。
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