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ノモト研究員もヨダ博士も話したいことを話せないまま、ごくありきたりの日常を三人で話して食事がすんだ。三人はレストランを出た。三人のまわりに、蝶やアキアカネが飛んできた。
「監視ロボットですね」
ノモト研究員がさりげなく言った。施設内はいつも何かしらの昆虫が飛んでいる。それらもクラリスが施設管理のために飛ばした監視ロボットだとノモト研究員はささやいた。
「では、僕は家へ帰ります」
ノモト研究員はなごり惜しそうにヨダ博士たちに別れを告げた。ヨダ博士たちは繁華街をしばらく歩くことにして、施設内の各フロアの軌道を走るトロリーバスに乗った。
繁華街は山間の平地にあり、透明なドームでおおわれている。繁華街の広い通路は歩行者専用だ。後ろ手に手を組んで広い通路をノンビリ歩きながら、ヒロコがヨダ博士に笑顔をむけた。山間の紅葉が夕陽に映えてヒロコの顔を赤く染めている。
「研究はどう?」
ヒロコの目が優しく笑っている。
「順調だ。もうすぐ完全体を作れる。そしたらいっきに作業が進む」
ヨダ博士はヒロコの目をのぞきこむように見ながらそう言った。
「いよいよバイオロイド計画が進行するのね」
感激した様子のヒロコが立ち止まり、表情を変えてヨダ博士を見ている。
「でも、どうしてバイオロイドが必要なの?アンドロイドがいるじゃない?」
自身の疑問を消すように、ヒロコがヨダ博士の腕を抱きしめて歩きはじめた。
「ロボットやアンドロイドでは人間味がないからだろうね」
ヨダ博士はヒロコの腕を撫でながら歩調を合わせてゆっくり歩いた。
「それも、そうね」
ヒロコもヨダ博士の腕を撫でている。
「寒くないか?」
ドームでおおわれているため気温は変化しない。しかし過去の習慣から、陽が沈むと気温が下がる気がする。
「だいじょうぶ。ここの気温は一定よ」
顔をあげてヒロコはドームを見わたしている。
「そうだな」
歩きながらヨダ博士は自分の上着をヒロコに着せた。するとヒロコの首筋に、薄い四角の痣が見えた。バイオロイドの生体番号を示すQRコードだ。ヒロコがバイオロイドなのをヨダ博士はこの時はじめて知った。
「ヒロコ、私の首筋に痣がないか見てくれ」
歩きながら、ヨダ博士は自分の首筋を指さした。
「あるわよ。いつも見てるわ」
ヒロコに言われたこの時まで、ヨダ博士は自分がバイオロイドだとは思っていなかった。私の身体はどこだ!バイオロイドになる前、私はどこにいた?ヨダ博士は考えこんだ。そして、過去に何があったかを思いだした。
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