育成者の人格・AIパラドックス

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育成者の人格・AIパラドックス

「博士。放射性同位体ばかりです。遺伝子構造の炭素骨格を純粋な炭素に変えるべきです」  人類に代わるバイオロイドを研究するバイオテクノロジー総合研究所の遺伝子構造研究室で、ノモト・アキラ研究員が分析器のモニター見つめてヨダ・タカシ博士に言った。 「そうだな。純粋炭素に純粋塩基を転写するようクラリスに指示してくれ」 「了解です。クラリス、実行だ!」  ノモト研究員は、施設の全てを管理している、分散型巨大コンピューターシステムの人工知能クラリスのアバターに指示を伝えた。 「了解したわ。博士、アキラ。博士が話したように他の元素も変化しています。このままでは、生物界にも異変が起こるわ」  アバターは若い女性の姿で現われている。多重エネルギーフィールドで構成されたアバターは実体同様の存在感がある。 「対策は?」  ヨダ博士はクラリスに訊いた。クラリスがほほえんで答える。 「純粋な原子だけで遺伝子構成するよう遺伝子をプログラムすることです」 「そんなことは不可能だ・・・」  分子全てから放射性同位体を完全排除するのは不可能だとノモト研究員は思っている。  クラリスが説明する。 「ナノロボットを使います。ナノロボットが自身の百分の一オーダーの原子を扱うのです。可能能です。アキラ」 「それなら、納得できる。進めてくれ」とノモト研究員。 「わかったわ。アキラ」  クラリスがノモト研究員とヨダ博士にほほえんだ。  その瞬間、ヨダ博士は、放射能汚染される前の自然界がもはや存在していないことを再確認して愕然とした。私も自然の一部だ。飛散した大量の放射性物質で自然界に異変が生じているなら、ここにいる我々人間だけがかつての正常状態を保っているとはかぎらない。いったい私は何をしようとしている?私の身体は正常か?ヨダ博士は自分の手を見た。あの海辺の別荘で見たときと同じシミ一つ無い綺麗な指だ。もしかしたら私はかつての私ではないかもしれない・・・。  一瞬に閃いた疑問でヨダ博士の態度が急変した。ヨダ博士はノモト研究員を呼んだ。 「ノモト君・・・」 「何ですか?」  クラリスと話しているノモト研究員が驚いた顔でヨダ博士を見た。ヨダ博士はクラリスに監視されている気がして、話そうと思った疑問を日常的質問に切り換えた。 「体調はどうだ?」  「いいですよ。いつもと変わりませんよ。どうかしたんですか?博士」  ノモト研究員は奇妙な目つきでヨダ博士を見つめている。 「いや、どうも身体が若返ったような気がしてね。君はどうかなと思ったんだ」  クラリスが気になり、ヨダ博士はそれしか言えなかった。 「僕はいつもと同じですよ。遺伝子構造の再編はクラリスが行います。今日はここまでにして、夕食をいっしょにどうですか?それともヒロコが待つ家へトンボ帰りしますか」  ノモト研究員はなにか訳があって食事に誘っているとヨダ博士は思った。 「君と食事しよう。ヒロコに連絡するよ」 「私が連絡します。いつものことですから」  クラリスがふたりの話に割って入った。私はいつも帰宅時刻をクラリスに連絡させていたのか?ヨダ博士は疑問に思った。
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