3 共存・緑の壁

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 隔離病棟に収容三日後、これといった治療もしないのに、発症した調査員たちは快復した。そして、マツラ一族が発症した。 「教授、マツラ一族が発症したのはなぜだ?調査員は快復したんだろう?」  オオスミ・ゴロウ教授は、WHO国際伝染病研究所の所長室にアントニオ・ジッタ教授を訪ねてそう訊いた。 「教授と呼ぶのはよしてくれ。長いつきあいなんだ。アントニオでいいよ。  今のところ、発症原因は不明だ。まさに未知との遭遇だね・・・」   感染症病理学の専門家アントニオ・ジッタ教授にも、調査員とマツラ一族の発症原因はわからなかった。 「調査団の発症者はどういう者たちだった?」  オオスミ・ゴロウ教授が訊いた。 「病歴か?」 「調査団全員の検査結果に異常は無かった。僕らは発症しなかったが彼らは発症した。  発症した調査員の共通点や、マツラ一族との共通点が無いかと思ってね・・・」  オオスミ・ゴロウ教授は、発症者に共通点があるような気がした。 「未知のウィルスや細菌が感染源だと言うのかね?それはないだろう。何度も検査したが、何も見つからなかったよ・・・」  アントニオ・ジッタ教授は、発症原因追求の見落しを責められている気がした。不満のこもったまなざしをオオスミ・ゴロウ教授にむけている。 「君の方は、今回の調査で発見があったのかね?」 「アントニオ、君を責めてるんじゃないよ。君が言うように病理学からかけ離れた未知の現象の気がするんだよ。その事を訊こうにも一族はあの状態だ。何も訊けない・・・。  ああ、忘れるところだった。  現地に残った調査員から、密林が弱ってきたらしいと連絡があった。気候に変動が無いのに妙だと言ってきた。何か影響してるとすれば、我々調査団と一族の移動くらいだ。  我々が病原菌を持ちこんだとは考えられない」 「もちろんさ。我々は何も持ちこんじゃいない・・・。  いや、これは正しくないな・・・」  アントニオ・ジッタ教授しばらく考えて口を開いた。 「我々は密林に病原菌やウィルスを持ちこまなかったが、密林に我々自身を持ちこんで出てきた。ついでに密林から一族を連れてきた・・・」  オオスミ・ゴロウ教授は、マツラ一族の長老マツラ・ゼンゾウが、 「密林から出ると災いが起こる」  と言っていたのを思いだした。 「長老の言葉を聞いた当初、長老がマツラ一族に対する未知の細菌やウィルスのことを話 していると思ったが、他のことを説明しようとしてたんだと思う・・・」  そう言ったものの、オオスミ・ゴロウ教授は、長老の言葉が何を意味するのか、見当もつかなかった。 「今、現地の調査員はどこにいる?」  アントニオ・ジッタ教授が、食い入るようなまなざしをオオスミ・ゴロウ教授にむけた。 「密林にいるよ。それが何かね?」  わかりきったことを訊くな、とオオスミ・ゴロウ教授は思った。 「今も、あの一族がいた密林にいるのか?」  アントニオ・ジッタ教授は、昼なお暗い今にも雨が降りそうな高温多湿の密林を思った。あんな所では医療活動をしたくない。 「いや、今はあの巨大密林の外だ。君の意見をとりいれて、少しでも湿気の少ない地帯へ移動させたよ」  それがどうしたのかね、とオオスミ・ゴロウ教授はアントニオ・ジッタ教授を見た。 「調査員たちは無事か?」  アントニオ・ジッタ教授がそう訊いた。 「ああ、無事だよ。現地にとどまってるのだから無事なはずだよ」 「現地の調査員は一度も発症しなかった者たちだな?」  アントニオ・ジッタ教授は、何か思いあたることがあるらしい。 「そうだと思う」  アントニオは何を考えてるのだろう、とオオスミ・ゴロウ教授は思った。 「残った調査員の健康状態と行動範囲を教えてくれ。君の所に報告記録があるだろう?」 「何かわかったのか?」 「まだ推論に過ぎない・・・。推論の確認に、調査員の行動記録が必要だ・・・」 「わかった。位置情報と身体放射波の記録なら、今すぐ見れる」  調査団の現地インフラは、常時、調査員の動向をモニターしている。
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