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一 太平洋の半分
二〇二五年十月二十六日(日)二十一時三十分。ワシントンD.C. ホワイトハウス、大統領執務室で、合衆国大統領ジョージ・ジャクソンは電話会談中だった。
「太平洋の半分は、合衆国のものだ!残りの半分は、中国のものだ!太平洋を、我々で分けるべきだ!」
『あまりに傲慢な考えだ!学銀平国家主席は、アホだ!』
電話会談が終わると、合衆国大統領ジョージ・ジャクソンは、安全保障条約をかわしているASEAN諸国に、中国国家主席との電話会談の内容を知らせ、緊急に南国サミットを開催して対応策を講じる事を提案した。
全ての連絡が終わり、ジャクソン大統領は受話器を置いて、執務机から立ちあがった。
ジャクソン大統領はアフリカ系革新派だ。イスラエル系保守派に対抗している。
「南国サミットにおける我々の声明で、今後のミサイルによる恫喝はないはずだ。今さら、世界的な民主化は阻止できない。中国はいったい何を考えてる」
室内を歩きまわりながら、ジャクソン大統領は副大統領トーマス・ファイマンに、そうつぶやいた。
二〇二五年十月三十一日(金)十九時。
副大統領トーマス・ファイマンは、ホワイトハウスの大統領執務室で、大統領執務室のディスプレイに見入った。十九時のニュースで、南国サミットが緊急報道されている。
「パラオ共和国で開催されている南国サミットで、
『東南アジア・オセアニア経済圏協定諸国』から成る、『東南アジア・オセアニア国家連邦、Federal Republic of South-East Asian and Oceanian Natins・FRSEAON』 が成立しました。
日本政府をモデルにした、真の民主国家連邦の成立です。
FRSEAON議会、対策評議会評議委員長に、日本の洋田剛太郎(日本国家議会対策評議会評議委員長、実質的総理)が選出されました。
FRSEAON政府はタイのバンコクに置かれる予定ですが、暫定的に日本政府がFRSEAON政府として機能します。FRSEAON政府の形態は、日本政府を基盤にしています。
市場経済と金融資本主義を国際的に根本から見なおし、地球温暖化を防止する新たな協力体制が強まり、FRSEAONが成立しました。
なお、韓国、朝鮮、中国は、FRSEAONに加盟していません。
南国サミットには、合衆国をはじめとする北米と南米諸国も参加しています。
FRSEAON議会、対策評議会評議委員長・洋田剛太郎は、世界の安定的存続のために、北米諸国と南米諸国が国家連邦を構成することを強く望むと声明を発表しました」
「ジャクソン大統領は、FRSEAONの意見を支持し、合衆国を中心とする『北コロンビア国家連邦』と、南米諸国の『南コロンビア国家連邦』構想を提唱しました。
サミットに参加している北米諸国と南米諸国は、『北コロンビア国家連邦』と『南コロンビア国家連邦』成立の仮調印を行いました。事実上の『北コロンビア国家連邦』と『南コロンビア国家連邦』の成立です。これは東南アジア・オセアニア経済圏協定から、『環太平洋経済圏協定』への拡大であり、合衆国を主軸にしたTPPの崩壊です。
中国、朝鮮は東南アジア・オセアニア経済圏協定だけでなく、TPPにも加盟していません。
韓国はTPPに加盟していますが、東南アジア・オセアニア経済圏協定に加盟していません。
ジャクソン大統領は、
『TPPは東南アジア・オセアニア経済圏協定と名を変え、合衆国主導からFRSEAON主導で継続している。実質的になんら支障はない。
これまでの環太平洋諸国とASEAN諸国の安全保障条約を、FRSEAONとの安全保障条約へ、さらに環太平洋国家連邦諸国との安全保障条約へ、合衆国主導で拡大する』
と、環太平洋安全保障条約を提唱しました。
しばらくお待ちください・・・・」
解説者が席を離れ、静かな音楽が流れている
『筋書きどおりだ。ジョージもやるじゃないか。大国の首長にはジョージのように、品位と高潔が必要だ。成金の首領のような態度で威圧するのは反感を招く。四千年以上の歴史を持つ大国が、太平洋の半分とは、呆れたもんだ・・・』
映像に見入るファイマン副大統領は、打ち合せどおりに動いているジャクソン大統領の落ち着いた態度に感嘆した。
解説者が姿を現した。
「FRSEAON議会対策評議会評議委員長・洋田剛太郎は『FRSEAONは合衆国に依存しない全地球規模の安全保障と成るべく軍事力『FRSEAON地球防衛軍』を日本の地球防衛軍を基盤として組織した』と発表しました。
暫定的に、FRSEAON各国軍が、日本の地球防衛軍総司令官の指揮下に入りました。これにより、世界最大最強の防衛軍『FRSEAON地球防衛軍』が誕生しました。
FRSEAONは『FRSEAONに対するあらゆる攻撃に対し地球防衛軍は反撃して殲滅する。現在、FRSEAON内に進出して、領土を実効支配している国家を侵略国家と見なし、領土奪回のために侵略地を空爆する』と国際社会に通達しました。
しばらくお待ちください。何か異変があったようです」
解説者が、イヤホーンからの情報で、険しい表情になった。サミット関係者が会場に駆けこみ、会場がざわめいている。解説者のもとにも、関係者が走って何か伝えた。解説者の表情に緊張が現われている。関係者が立ち去った。
「緊急速報です。
中国が、国外や国境付近の各自治区に駐留している軍と人民に撤退命令を出しました。
ロシアと韓国が、実効支配している諸島から軍と国民を引きあげるよう命じました。
EU諸国は東南アジア・オセアニアに有する自治領の独立を即時承認しました。
国連総会は『各国自治領や自治区、国連のオブザーバーとして国家承認されている自治区の独立を認め、自治区と自治領を独立国家の領土と正式承認する』と決議発表しました。
これに対し、安全保障理事会常任理事国は、国連総会決議に拒否権を発動して反対しています。合衆国とイスラエルは、パレスチナの国家承認に反対しています。
FRSEAONとEU、合衆国を除く北コロンビア国家連邦と南コロンビア連邦の仮調印諸国は、これまで自治領や自治区だった地域の民族独立を認め、国家承認しました。
これまで多くの国連加盟国が『安全保障理事会常任理事国が、正義に基づかない自国の利益のみを通して、国際連合を独占支配している』と批判的でした。
国連総会は、世界最大の地球防衛軍を組織したFRSEAONの成立により、正式に、
『国際連合を支配してきた、第二次世界大戦勝利国である安全保障理事会常任理事国、合衆国、イギリス、 中国、フランス、ロシアを罷免排斥し、安全保障理事会制度を廃止する。
第二次大戦の勝利国である「連合国」の名称を使用した「国際連合」を廃止し、これまでの国連安保理常任理事国を除く、かつての国際連合の全加盟国によって構成される
「国家統合会議」を発足する。
世界の安全保障をはじめ、すべての決議を、国家統合会議総会の三分の二以上の議決によって決定する』と発表しました。
EU加盟国の英仏は、ただちに国家統合会議の決議に賛同しましたが、合衆国とイスラエルはこの決議に反対しています。他国の領土を実効支配している中国は、漢民族をうわまわる国内他民族の独立やチベット独立、他国との領土問題を懸念して反対しています。ロシアと韓国は領土問題から反対しています」
他のニュースに変った。
ファイマン副大統領はディスプレイのスイッチを切り、筋書きどおりだとほくそ笑んだ。
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