4 大陸間弾道弾

二 厳戒態勢

　二〇二五年十月三十一日（金）二十二時過ぎ。
　ホワイトハウス大統領執務室のディスプレイの自動スイッチが入り、担当官が緊急事態を告げた。ディスプレイにサミット解説者が現われ、緊張が漂っている。

「国家統合会議の決議を考慮し、南国サミットの場で、ＦＲＳＥＡＯＮ議会対策評議会評議委員長、洋田剛太郎が、ＦＲＳＥＡＯＮ諸国に、
『かつての国連安保理常任理事国やそれらに従う国からの攻撃、および、国境侵犯等の非常事態に対し、厳戒態勢を布け』
　と命じました。かつての国連安保理常任理事国が、『国連の体制変化はＦＲＳＥＡＯＮ成立に起因する』と判断する可能性があるからです。

　速報です！　朝鮮が、
『十二月十二日金曜日午前十一時に、人工衛星を打ち上げる』　と発表しました。
　南国サミットの場から、洋田評議委員長が、ＦＲＳＥＡＯＮ諸国に、『ミサイル攻撃に対する防空防衛体制を布け』と命じました。
　ＦＲＳＥＡＯＮ暫定政府から、緊急発表が行われます｣

　映像が、ＦＲＳＥＡＯＮ暫定政府がある日本国家議会対策評議会官房長官執務室に変った。吉見官房長官がおちついた口調でゆっくり話しはじめた。

『ＦＲＳＥＡＯＮ国民に、暫定政府の緊急発表を知らせる。
　ＦＲＳＥＡＯＮ議会対策評議会評議委員長、洋田剛太郎の命により、ＦＲＳＥＡＯＮの各国地球防衛軍が、他国からのミサイル攻撃等に備え、防衛体制を展開し、ミサイル攻撃と領空領海領土侵犯に備えた第一級厳戒態勢を布いた。
　ＦＲＳＥＡＯＮ議会対策評議会は、暫定政府の神尾法務大臣と地球防衛軍総司令官の清洲地球防衛大臣に命じ、ＦＲＳＥＡＯＮ地球防衛軍とＦＲＳＥＡＯＮ各国情報機関に、ＦＲＳＥＡＯＮ全土とＦＲＳＥＡＯＮ国内要所に、第一級厳戒態勢に基づく防空体制を布かせた。ＦＲＳＥＡＯＮ全土のミサイル防空サイトは防空シールドを強化し、厳戒態勢に入った。
　ＦＲＳＥＡＯＮの防衛網は完璧である。何も心配はいらない』
　映像が変った。解説者が説明する。

「日本の国家議会対策評議会情報本局が管理する情報収集衛星は１６機あります。非常時は高度１５０㎞まで降下し、あらゆる情報収集が可能です。レーザービーム兵器で自動応戦します。防御シールドで自己防御しながら、アクティブ攻撃が可能です」

　ディスプレイを見ながら、ファイマン副大統領は思った。
『このままではＦＲＳＥＡＯＮの人々が戦闘の憂き目に合う。ＦＲＳＥＡＯＮは速やかに抑止力となる、核兵器のような二次被害を出さない、絶対的抑止力を持たねばならない・・・。
　国際宇宙ステーションに巨大パラボラ反射鏡の太陽光集光エネルギー転換装置を建設しよう。これは巨大ビーム兵器だ。大陸間弾道ミサイルの迎撃はおろか発射前の破壊も可能だ』
　副大統領の顔に、笑みが浮かんだ。構想が、また一歩前進しつつあるのを確信している。