殿下は君と恋がしたい!

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「今日はユツキの元に行かないのか?」 ルイスがうずうずしながら朝支度をしていた。 「本日は参りません。夕方頃使者がいらして『熱があるから特訓は延期で頼む』とイブキ様からの手紙を受け取りましたから」 「イブキから?なんだ…もうバラしたのか?」 ユツキとの内緒の計画に内心喜んでいたルイスが少しむくれた顔をする 「イブキ様への嘘、隠し事は通用しませんよ。人体を熟知しておられますからね」 イブキは医者の卵とはいえ、幼少期からの熱心な勉強のおかげで知識は王室御用達の医者を超えていた。 ジョナサンは手紙の様子から二人が仲直り出来たのだと感じ取り密かに微笑んだ。 「殿下、ネクタイが曲がっておりますよ」 「おっと…変なところに敏感だからな…母上は…」 今日はルイスの母、リアム・キング・マジェステックとアフタヌーンティーを共にする日だ。 「どうだ?変じゃないよな」 全身鏡でくまなくチェックするとジョナサンに意見を求めた。 「大変お似合いになっておられますよ」 紺色のブレザーにアイスブルーのネクタイを締めてのシンプルな装い 「母上にアデレイド先生の授業を卒業できることを伝えないと…」 「泣いて喜ばれますよ」 ジョナサンはニコリと笑った。 ルイスは怒りをグッとこらえて髪を整えてもらう 「あ、あと…」 ルイスが少しモジモジとしながら鏡越しのジョナサンを見る 「婚約したい人…の話も一応…」 「喜ばれますよ」 ジョナサンは笑顔のままルイスの癖毛を整えた。 「母上、お待たせしました。」 ガゼボの下でルイスのことを待っていたリアムが軽く手を振った。 「待ったよ~、久しぶりに息子とちゃんと話せるんだから」 「申し訳ありません。」 「いいよいいよ。ほら、座って?」 ミルクティー色のストレートヘアをリボンで結び、同じ色のアーモンド型の瞳を輝かせている よく見れば口元もルイスとそっくりだ。 「良かった~卒業出来そうなんだね」 「ゴシンパイ、オカケシマシタ…」 「でも、急にやる気になったみたいだね。また、あと一年かかるって言われると思っていたよ」 「それには海よりも深い深いわけがありまして…」 リアムは首を傾げる 「深いわけ?なに?好きな子でもできたの?」 からかい半分で聞いたリアムだがルイスの同様に目を疑う 「え、冗談のつもりで言ったけど冗談じゃなさそう…」 「あの、その…まぁ…」 いざ言うとなると尻すぼみな意味の無い言葉だけが漏れる 「え?だれだれ?この間縁談を持ち込んできた公爵のご令嬢?それともよくパーティーにくる男爵令息?」 「いや、そんな人達じゃないけど」 「えぇ…?」 リアムがうーんと唸って考え込んでいる 病弱なユツキは婚約者候補にも上がっていないのかと少し怒りが湧いてくる 「ユツキ・グランデューク・ローラント…先日交際を申し込みました。」 「え、でもあの子は…」 あの子は病に侵されていて国母の器では無い、そう出かかった言葉を飲み込んでしまうほどの慄然とする瞳 到底親に見せるものでは無い ごくりと息を飲み慎重に話を続ける 「その子を一生涯の伴侶に?」 「えぇ、私はそう考えています。そのための準備も自分なりに整えているつもりです。」 「準備?例えば」 リアムは机の上で指を絡めて組み、姿勢を正した。 「エーテル王国に行きます。」 「エーテル王国?なんでそんな遠くに」 「失せ物の塔でユツキの病を治します。そうすればユツキは周りと遜色ない体が手に入ります。家柄、教養、品格申し分ない。そうでしょう?」 ルイスの冷たい瞳が真っ直ぐとリアムの両目を見据える 「そうだね。勝算はあるのかな」 リアムは微笑をたたえ余裕を繕う 「私は12歳で戦争に赴き、一部隊を壊滅させた実績があります。その私に勝算?母上は私にこれ以上何を求めるのですか」 リアムは目を見開き背もたれに背をつけ、空を見上げるとこれでもかと大きな笑い声を上げた。 突然の出来事にルイスはリアムの気でも狂わせてしまったのかと先程の冷たい瞳をしまい込んだ。 「いやぁ…ごめんごめん…あんなに戦争の話をしたがらなかったルイスが、一部隊壊滅させたなんてさ。あの頃の話を戦果みたいに言うから…一瞬別人かと疑ったよ。」 「別に今でも、あの時の話がしたい訳じゃ…」 「分かってる。悪かったよ。 そんなことまで言わせちゃうような子なんだね。」 ルイスは黙り込み先程の威勢はどこへやらと、しおらしくなった。 「援助はしないよ。自分の力で成し遂げなさい」 「はい」 ルイスは再び強い視線を向けた。 先程とは違い暖かく決意がみなぎる瞳だった。
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