5 パンドラの箱

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5 パンドラの箱

 大喜びする声と思いが近づいて箱のふたが開いた。  笑顔の大きな目が迫ってきて、手が私を取りだし、まわりに付いている衝撃吸収剤を外した。この大きな目の彼女が私の持主だ。 「業務用で人気だからずいぶんお待たせしました。  長い髪も、大風量で手早く乾かせるよ。  大型のドライヤーだから、髪をかんたんにセットできるよ。  何度もセットをためしてください・・・」  彼女が私をテーブルにおいてバスルームに入った。  シャワーの音が聞え、しばらくすると濡れた髪をバスタオルで拭きながら彼女が出てきた。私を見る彼女は、また笑顔になった。  私のプラグをコンセントにいれて、私の温度設定し、スイッチを入れた。髪を乾かしている。 「ほら、濡れた長い髪も、熱風ですぐ乾いたよ!  暑いから、冷風を当てよう・・・。  髪がサラサラだよ!」  彼女は乾いた髪を鏡に映して笑っている。  その日から彼女は、日に何度も私をつかった・・・。  彼女に使われて八日目だった。彼女は何度も濡れた髪を乾かしてセットした。 「やっとセットが決ったね!  でも、暑いから冷風を当てようね。髪はサラサラだよ!  あっ、いけない!遅刻しちゃうよ!」  彼女はあわててコンセントから私のプラグを抜いた。  ベッドにもたれながら、髪をセットした彼女は、立ちあがった拍子に私を踏んだ。  私のボディーに激痛が走り、 「バキッ・・・」  音をたてて割れた。  アアッ、と小さく叫び、彼女はしばらく呆然と私を見ていた。  しばらくすると、私を袋に入れて、部屋を出ていった。  袋の中にはヘヤーアイロンもあった。 「ロンと呼んでくれ。  俺は、髪が焼きついて焦げ臭くなったら、ここに入れられた」  とヘヤーアイロンは言った。 「踏まれてボディーが割れたら、この袋に入れられた」  私はロンにそう説明した。    その日から、私とロンは、彼女に使われなくなった。 「どうしてこんな所に閉じこめておくの?  私の居場所は化粧棚の上だよ。もとの場所へもどしてよ。  ロンも、もどしてよ。  どうして使わないの?私と会ったとき、あんなに喜んだのに、なぜなの?  ボディーが割れても、機能はそのままだよ。使えるよ。  頼むよ。使ってよ。ねっ、お願い・・・。  ロンだって使えるよ。ロンも使ってよ」  翌日。ドアチャイムが鳴って、大喜びする彼女の声が聞えた。  ガサゴソ音がして、彼女が私を最初に見た日のような、あの大喜びする彼女の声と思いが部屋に満ちてきた。  まもなくバスルームのドアが開いてシャワーの音が響き、ガーッと音がした。 今まで私は、私に対する彼女の思いをわずかばかり感じていたが、この時からまったく何も感じなくなった。 「ねえ、どうしたの?あんなに喜んでたのに、私を忘れたの?」  彼女は、私とロンが入った袋を開けなかった。
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