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プロローグ
初夏の気持ちのいい風が吹く夜。
「匠ー。俺、結婚するわ」
好きな奴から結婚するという報告を受けた。
それはなんの変哲もない居酒屋で、
突如落とされた爆弾。
「いやーお前と出会って12年ってあっという間だったな」
お前はそう言うけど、俺にとってはすげー長い12年だよ。
そう吐き捨てたい気持ちを飲み込んで
「本当だな、これからもよろしくな」
ちゃんと笑えてる?口角を上げて、目尻を下げて…
「だな! お互い子供ができめ家族ぐるみで遊べたら楽しそうじゃね?」
どう返事していいかわからず、笑って誤魔化した。
結婚報告だけで、こっちはすでに重症負ってるのに、畳み掛けるように「家族」と「子供」でもう虫の息。
そんな俺の感情など梅雨知らずほろ酔いで嬉しそうに笑う爽やかな笑顔が憎い。
嫁がゲスで浮気でも不倫でもすればいいのに。サレ夫になってゲロゲロに泣きながら離婚すれば良いのに。
こんなことを思う俺が一番最低最悪なのはわかってる。
そんで、万が一、億が一お前がそんな不幸に陥ったとしても、それを救えるのは俺じゃないこともわかってる。どこぞの女だ。
幸せにできるのも、気持ちよくできるのも、男の俺じゃない。どっかの馬の骨ともしらねぇ、性別上の女だけだ。
お前の幸せが俺の幸せだよ、
なんて悟りの境地に、いつか辿り着けるだろうかー…
そんな気持ちを自分の中に流し込むように、片手に持ったジョッキを煽った。
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