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六 飛行人・アイネク
シドラは意識をなくしたときから、右手の、推進装置の速度調整する握りを放していたが、左手の停止ボタンを押していなかった。推進装置は稼動したまま静かに推進剤を排出し、リズミカルな震動をシドラに与えていた。
シドラは運よく対流圏の乱気流の乱流から層流に流され、ゆっくり浮上し、成層圏に到達していた。だが、意識はもどらず、シドラ自身がどうなっているか、まったく気づいていなかった。
大きな球体型宇宙戦艦が浮遊するシドラに近づいた。艦体の中央から牽引ビームを放ってシドラを捕捉し、艦体のダイアフラムを開いて艦内にシドラを回収して、捕獲エリアに閉じこめた。
牽引ビームがシドラを捕捉すると同時に、シドラは意識を回復し、飛行装置を停止させていた。飛行装置は壊れてなさそうだった。左腕の推進剤を示す目盛りは160だった。まだ充分に飛行できる。シドラは気を失っているふりをして捕獲エリアを漂い、シドラを捕獲した飛行人たちの心を、飛行ヘルメットの中から、その姿を感じてギョッとした。シドラはハラハラしながら身体をかためて動ずに、飛行人たちを観察した。
「また、同じ飛行服と飛行装置を身に着けてる。同種のヒューマノイドといっしょにしとけ」
宇宙戦艦のボーマン船長はシドラの身長の4倍もあった。二本の脚で立って、ダビド管理官にそう指示し、一本の脚でディスプレイに現れた船倉の巨大捕獲カプセルを示した。他の三本の脚でコンソールを操作して、大量にある他の巨大捕獲カプセル内の捕獲生物を、ふたつの複眼で確認している。
この球体型宇宙戦艦は、惑星アイネクの生物サンプル捕獲戦艦で、飛行人はアイネク族だった。戦艦専属クルーの他に、多数の生物学に関係する専門家が搭乗していた。
「惑星68の、この種のヒューマノイドは多数捕獲しました。もう不用では?」
同一生物を同一空間に大量に収納すると、生物はたがいを殺戮するか、あるいは自滅する。ダビド管理官は生物学者らしくそう考えていた。
「そうだな。これ以上カプセルに入らないし、カプセルは増やせんな・・・」
「やはり、廃棄するのがいいように思います」
ボーマン船長の言葉に、ダビド管理官は安心したように答えた。あまりに多くの生物サンプルを捕獲したため、管理に支障をきたしているのだ。
「それにしても、シールド捕獲できないヒューマノイドが、こうして浮遊してくるんだから、ふしぎだ・・・」
「地上の岩山と岩山のあいだはシールド捕獲できませんが、ビームや衝撃波で驚いて、逃げだしてくるんでしょうね」
ダビド管理官は惑星68の生物追い込み捕獲方法を説明した。
「最近のヒューマノイドは進化したな、大気圏外で活動できる装備を身に着けてる・・・」
「こんなのでここまで浮遊してくれるから、生物サンプルを集める我々は助かりますね」
「サンプルの捕獲方法を考えなくていいものかね?」
「これだけサンプルを集めれば充分ですよ。
オイ、助かったな!まあ、もどって長生きしろよ!捕獲されるんじゃないぞ!」
ダビド管理官は、シドラを捕獲エリアから牽引ビームで成層圏へ放りだした。
たすかった!もどるんだ!
岩山のあいだに隠れて、外に出なければ、捕まらないんだ!
グランドラの言うとおりだ!
シドラはあわててて左手の推進装置の起動ボタンを押し、右手の握りを思いきり握った。
推進装置は一瞬に、シドラの身体を成層圏から対流圏へ垂直降下させた・・・。
(了)
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