四 吟遊人ゼルフ

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 シドラはゼルフの思いを感じた。 ゼルフは成層圏にいた飛行人を見たことがあるのだ。 「飛行人を見たことあるの?」 「ああ、あるよ」 「どんななの?」 「へールのごとく大きくて、ドルフのごとく利口で、ときにはサルークのごとく速くて、マナークのごとき大きさだ」 「さっき、 ゼルフがつぶやいてたね。どういうことなの?」 「自分の目で、成層圏から飛行人を観察することじゃ」  シドラはゼルフの心を感じた。シトル族のような甲冑と翼をまとったシドラの姿が ゼルフの心に現れてる。 「シトル族のように身体を硬くして、硬くて強い翼があればいいんだね?」 「そういうことじゃ。飛行人を探ってどうする?」  ゼルフの問いに、シドラは訊ねかえした。 「飛行人は、どうしてあたしたちを捕まえるの?」 「わしにはわからぬよ。飛行人に訊くしかなかろう」 「そんなことしたら、捕まるよ」 「捕まればわかるさ・・・」 「捕まったら、みんなに知らせられないよ」 「捨て身にならねば、わからんこともある」 「わかった。上まで昇ってみるよ」  シドラは対流圏を越えようと決意した。 「しっかり身支度するのじゃぞ。対流圏で流されたら、あわてずにチャンスを待つのじゃ。いつか、どこかへたどり着く。そしたら、また昇るのじゃ。  では、またな。いずれ、どこかで会う機会があるだろう」  ゼルフはそう言ってシドラの前から、対流圏へむかって浮遊していった。  シドラはふたたびドラゴの洞窟を訪ねた。すると  シドラに、ドラゴが言った。 「やっぱり、ゆくのか?」  ドラゴは、 ゼルフがよけいなことを言うからだと思いながら、隠していた飛行装備をシドラに見せた。隠していたって、シドラは俺の心を読んでいる。いつか装備のことを知るはずだ。 「こんなのがあったんだね。身に着けていいよね?」  シドラはドラゴを見あげた。ドラゴはシドラより大きい。 「ダメだと言っても、着けるだろう」 「うん」  答えながら、シドラは硬い飛行服を身に着け、ヘルメットをかぶり、硬い翼がある装備を背負い、装備から延びている調節装置を腕と手に装着した。 「推進剤は満タンにしてある。腕にとりつけたメーターが200になっているだろう。  対流圏の流れがなければ、10目盛りで対流圏を越えるはずだが、対流圏の流れがあるから20目盛りは使うだろう。  20目盛り使っても対流圏を越えなければ、よそへ流される可能性があるから、ここにもどってこい。  左手にとりつけた握りの、赤と緑のボタンが推進と停止だ。  右手にとりつけた握りが、速度調整だ。強く握れば速く飛行し、やんわり握ればゆっくり飛行する。  推進剤を点検するから、外でためしてみろ。最初はゆっくり飛行して、ここにもどってこい。  さあ、ゆけ!」  ドラゴは準備ができたシドラをともなって、ケブロクの洞窟を出た。
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