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五 シドラの飛行
翌朝。停滞圏は陽射しが陰っていた。見あげても、対流圏にまばゆい輝きはない。対流圏の流れが激しさを増して、陽光の進入を妨げている。そのことは、シドラにもわかっていた。
「対流圏が激しく変化しとる。
昇りきれずによそへ流されたら、ここにもどってこい。そして、対流圏の動きをみて、ふたたび飛べばいい。
わざわざ飛行人を探らなくても、わしらは捕まらずにこうしてここにいる。これが、飛行人に捕まらない方法じゃ。
そうは言っても、シドラは確かめずはおれまい。
心ゆくまで、探ってこい」
グランドラの言葉に、シドラは安心した。グランドラに納得してもらえないまま飛行するのは心が痛い気がした。だけど、グランドラはシドラの心をわかってくれた。シドラは励ましてくれるグランドラと飛行装置を装着してくれたドラゴに、感謝をこめてほほえんだ。
「ありがとう、グランドラ。ありがとう、ドラゴ」
「いいか。対流圏の流れてくる方向へ向って、水平から45度ほどの方向へ上昇飛行するんだ。そうすれば、流れの力が装備の水平推進力で相殺され、シドラは対流圏を、ここの大地に対して垂直にまっすぐ上昇できる。
対流圏の流れの強さに見合うよう、シドラの身体の向きと推進力を調節するんだ」
ドラゴは、垂直上昇飛行に対するシドラの疑問を感じて、そう説明した。
シドラはドラゴの心を読んだ。ドラゴの言葉以上にドラゴの心を理解していた。
「わかったよ。そしたら、行ってくるね」
シドラは左手の推進ボタンを押した。
シドラの身体が浮遊した。シドラは対流圏の流れてくる方向を見て、右手の握りを握りしめた。シドラの身体が停滞圏をまっすぐ上昇した。
眼下でグランドラとドラゴが手をふり、無事に帰ってこいと叫んでいる。
シドラは二人に左手をふって答え、対流圏の流れてくる方向に目を凝らした。
勢いを増した流れがシドラに近づいてきた。シドラは対流圏の流れてくる方向へ45度ほど身体を傾けて、流れに突入した。
激しい流れだった。身体がもみくちゃにされ、シドラは自分の顔がどこをむいているか、わからなかった。もしかして、停滞圏にむかっていたら・・・。
シドラは右手の握りをゆるめた。もみくちゃになっていた身体が安定した。飛行装置も翼も壊れていないらしい。身体が安定したと言っても対流圏の激しい流れの中にいる。いったい、ここは対流圏のどの辺りだろう?成層圏に近いのか?それとも、停滞圏のすぐ上か?そう思っていると、シドラのまわりになにかが飛び去っていった。いったい、なんだろう?
シドラは飛行ヘルメットの中から、目を凝らした。すると、かたい身体とかたい翼を持つシトル族が、対流圏の乱気流にもみくちゃにされて吹き飛んでゆくのが見えた。そのあとにつづくのは強靱な身体と翼のアトナム族だ。
こんな種族の者たちも、対流圏の流れを乗り切れないのか?と思っていると、シドラよりはるかに大きなシトルがシドラにぶつかった。
シドラは一瞬に意識をなくした・・・。
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