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さて、この喫茶『クライノート』の店主である水無月光一は『自称』人間だがーー
相棒の美那神薙織哉は違う。
彼は『鈴鹿』という鬼の名家に生まれた純血の鬼である。
『勉強の為』に家を出て、紆余曲折を経た後に光一とこの店舗兼自宅で暮らしている。
傍から見れば顔立ちが良く、高身長な二人だが、どちらも恋人が多く『これが逆ハーレム(実際のハーレムはこんな平和(?)ではないだろうが)だ』と言わんばかりの状態だ。
「ホントいつか後ろから刺されそうで怖い」
「お前には璃燿、俺には梨葉が居るから助かってるようなものだな」
「店舗スペースはともかく自宅スペースデカイでしょ?あの兄弟がデカめに建てたんだよ?『ルームシェアする前提』って言わんばかりに」
光一さんビックリ、と嘯いてからオムチャーハンを一口食べ、咀嚼して嚥下する。
美味しいが海老が小さいのが不満だ。今度は自分で作ろう。
「……食べたら次の依頼こなそっかな……何入ってたっけ」
「今日はもう依頼入ってないぞ」
だから今日の仕事は終わりだ、と薙織哉がため息を吐く。
さて、彼らの話に出て来た名『天馬』とは雨月天馬の事である。
クラシック音楽を演奏するピアニストでありーー傭兵だ。
この赤月町において、傭兵は姿を消すことなく生き残っていた。
人々を襲う種族に対する対抗手段として、だ。
傭兵資格を持っていれば、その者は武器を携帯する事が出来る。
無論、取り締まりもそれなりに厳しいが。
一時間後、喫茶『クライノート』裏にある光一の自宅に、一人の男が入ってきた。
黒く長い襟足を髪紐を使って後ろで一括りにし、前髪で左目を隠した、翡翠の瞳の男。革靴を脱いで『雨月天馬』と書かれたプレートが掛けられた靴箱にしまうと、
軽く背広を叩いた後、天馬はリビングダイニングへと足を運ぶ。
外から聞こえてはいたが、やはり湯を沸かしていたか、と呟いてから、ダイニングテーブルの真ん中に置かれた電気ポットを見つめる光一の背に声をかけた。
「……おかえりぃ」
「コーヒーでも飲むのか?」
「ほうじ茶。相変わらず耳良いね」
「……人ではないからこそ、というやつだ。……薙織哉は二階か。足音はしないが」
「本取りに行ったよ。足音しないのは……癖みたいなもんだから。」
この男、雨月天馬は戦神と鍛治の神の間に生まれた神の子だ。
が、人間界で育った為にその思考は人間に近い。
近いだけであって、完全に人間と同じ訳では無い。
天馬は光一からほうじ茶の入ったカップを受け取ると、光一の向かいに座った。
『恋人』という名の仲間が集うこの場は、天馬にとって帰るべき場所だ。
「……あ、明日の予定はホワイトボードに書いておいてね」
「……了解した」
夕方になれば仲間達が帰ってくる。
そうしていつもの1日が終わり、新しい一日が始まるのだ。
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