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調味料棚、新調します
蓮条霧夜は悩んでいた。
眼前のテーブルの上には大量のスパイス、そして自身の背後には工具片手に作業中の自身の主にして相棒の丒野璃燿。
場所は光一宅の居間である。
生憎家主の光一は店舗の方で剛、薙織哉と共に仕事中、梨葉は三味線教室で仕事中である。
今この場に居るのは神宮皐月、蓮条霧夜、丒野璃燿、雨月天馬の四人である。
「調味料棚が小さいぞ!!」
「うるっせぇよ。だから璃燿が新しいの作ってんだろうが」
「調味料が増えたからか今までの物では入り切らない。……にしてもまさか組み立て式のを買ってくるとは思わなかった」
「想像操作でいちいち出しては何も学びに繋がらんからな、作るのもまた学び」
光一に買って貰った調味料ラックの説明書を見ながら、璃燿は材料と工具を使用して調味料棚を組み立てていく。
「……そういや璃燿、お前本名『明継』っていうんだろ?良い名前じゃねえか」
「……ありがとう。梨葉は宵継という名なんだが、それぞれ『明けを継ぐ者』、『宵を継ぐ者』という意味を込めて母が名付けてくれた。気に入っている。……父親はどうしようも無く不器用な人だったが、良い父親だった」
「……ん?気に入っているのなら何故名乗らんのだ?」
霧夜にそう問われ、璃燿は工具を動かす手を止めに、苦笑を浮かべたまま返した。
「……同じ名を使い続けていたら、人間には異常に写るからな」
「……そういうもんか?」
「……そういうものだ、皐月。俺も幾つか偽名を持っている。雨月天馬、という名もその一つだ」
会話を交わしながら作業を続け、漸く調味料棚は完成した。璃燿は光一から予め指定されていた場所に調味料棚を置き、そこに調味料を並べ直していく。
やはりというかなんと言うか、霧夜の買ってきた調味料が増えた気がする。
それでも強く言えないのは、霧夜特製のカレー粉に助けられているからなのだが。
「……光一にカリーヴルストでも作ってもらうか」
今日が休肝日なのが残念だ、と呟いてから、璃燿は工具を持って倉庫へと足を運ぶのだった。
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