踏み出す一歩

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踏み出す一歩

あの日記を読んでから、いつも会釈を返してくれる子と大学ですれ違ったとき、自分も会釈を返してみた。 その子は驚いたように瞬きをしたけれど、すぐにまた笑い返してくれた。 そして友達から離れて私に近づいてきたその子は、「おはよう」と言った。 「お、おはよう、ございます」 蚊の鳴くような小さな声だったけれど、彼女は嬉しそうに笑った。 「この後、同じ授業入ってるよね? よかったら一緒に行かない? あ、あの子は違う講義だから、わたしと2人なんだけど……どうかな?」 今までだったら断っていた。 いや、何も答えず困ったようにふるまって、相手が迷惑だったよねごめん、と言って去っていくような雰囲気を作っただろう。 それではいけない。 そんな自分でいたくない。 あの日記で、私は変わると決めたのだ。 昔の私を助けると決めたのだ。 「ぜ、ぜひ」 「わー! 本当? 行こ行こ!」 彼女は嬉しそうに私の腕を引っ張った。 少しだけ、これからの大学生活が変わる予感がした。
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