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「うん。そうする予定」と言って帰ろうと、美愛がドアを横に開けると「あっ!」と今まさに病室に入ろうとしてドアの前に立っていた俊が声をあげた。
俊:「あ、橋本さん………もう、帰るんですか?」
美愛:「はい。今日は帰国前の最後の顔を出しなのでここらへんで………あ、どうぞ、お先に」
俊:「あ、ありがとうございます。すいません」
美愛:「いえ、面会はご家族の方優先ですから」
俊:「はい?」
真央斗:「おーい! 聞こえてるぞ」
真央斗の声を聞いた美愛はフフッと笑うと「じゃあね!」と言って病室から出て行った。一瞬ポカーンとしていた俊だったが、「あ、そうだ!買ってきたぞ」と言って買ってきた他のものを取り出しながら、真央斗のベッド脇にあるサイドテーブルに果物のようなモノをおいた。
真央斗:「…何これ?」
俊:「あ、それ? リンゴ」
真央斗:「え、リンゴなの? え、リンゴって、もっとこう…いや、それはさておき、え、『甘いもの食べたい』って言わなかったっけ?」
俊:「だから買ってきてやったじゃん」
真央斗:「…『甘いもの』の定義って知ってる?」
俊:「じゃ逆に言うけどさ。こんな戦争起こりそうなとこの近くで甘いもんなんて売ってるわけないからね」
世間とは分かりやすいものだ。数日前まで俊の行動はコイツの所属するチーム内で大問題になっていたが、『幼馴染の友達を輸血で助けた』という事実が明るみになるやいなや、あっという間に『時の人』になった。『友の愛に走る』とか『命を救うサッカー界の救世主』とかとか…本人の所属団体も手のひらを返し、本人曰く、運営側の意向で1ヵ月の休暇をもらったそうだ。
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