11 管理官

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 大学にもどった日の午後。カンナはアッキに会いにいった。教授室のドアを開けたが、アッキはいない。背の高い男がいる。 「もう帰ったのか。休みはどうだった?」 「先生は?」 「なに?」 「ダビド教授はどこ?」 「僕だよ。夏休みの前に話した通り、昔の若い僕にもどった」  歳をとれば容姿は変る。カンナは私の若いころの姿を知らない・・・。  アッキは若い身体に手を加えたことをカンナに話さなかった。 「若返ったの?本当に若くなったの?信じられない。それに・・・」 『アッキの思考を伝えますか?』  カンナに通信機アリスの声が聞えた。カンナは迷わず伝える。 『待って。アッキの話を聞いてからにする』 『わかりました』  若いアッキは、なんて素敵なんだろう!  カンナはアッキの容姿に見とれ、そして、アッキに抱きついた。  背も高いんだ・・・。あたしより頭半分以上も背が高い・・・。  カンナはアッキがどうして若くなれたか知りたくなり、顔を離してアッキを見つめた。 「どうやって若返ったの?」 「政府の特殊技術による肉体改造だよ。遺伝子操作して、三十代の私にもどしてもらった。  大学での立場はアッキ・ダビド教授の息子、アッキ・ダビド・ジュニアだ。  一年後にコンラッド大学に転勤だ。カンナととともにコンラッドで暮らせる」 「本当なのね?」 『アリス。アッキの考えを教えてね・・・』  カンナがそう考えると同時に、アッキの思考がカンナに流れた。アッキの言葉に嘘はない。カンナは安心した。 「本当だとも」  アッキはドアを施錠してカンナを強く抱きしめた。カンナは身も心も溶けていった。 「話があるの。コンラッドの特殊通信機器メーカー・Aliceに採用されたよ。これでほんとにアッキといっしょに暮らせるね」  ソファーベッドのカンナは、アッキの腕の中でそうつぶやいた。 「そしたらできるだけ早く婚姻届を出そう」 「えっ?あたしが卒業してなくていいの?」 「卒業してからがいいのか?」 「そんなことない!うれしい!  もう一つ話があるの・・・」 「なに?」 「特殊通信機器メーカー・Aliceから、思考を読む通信機をわたされたの。今までの通信機のように貼ってあるわ。ごめんなさい。さっき、アッキの考えも読んでしまった。アッキが別人ではないかと思って・・・」 「別人だったろう?」 「身体は別人、中身はそのままね・・・」  カンナはアッキに抱きついた。カンナは今まで以上に身も心も溶けていた。 「そうしたら、婚姻届をだそう」  アッキは異星体・アイネクのアッキ・ダビド管理官の意識を捨て、人として考えていた。カンナの生態データ収集と管理報告は、首に貼られた通信機ネックが全て行なっていたが、通信機アリスは通信機ネックの素粒子信号を解読していなかった。 「うん・・・。もうすこしこうしていてね」  カンナの身と心はまた溶けはじめた。
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