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九月。新学期がはじまった。
最終学年になったカンナは前年度同様、アッキ・ダビド・ジュニア教授のゼミに入り、社会学の全科目を受講することになった。驚いたことに前年度の講義にも増してアッキの講義は学生でいっぱいだ。原因は大講義室の前部に陣どった女子学生で、講義終了後のアッキは教授室でも女子学生に囲まれている。
アッキが歳をとっていたとき、女子学生はアッキのことをおもしろい講義をする初老の教授くらいに思って寄りつきもしなかったのに、アッキが若くなったとたんこの有様だ。中には自分の身体を餌に、アッキをものにしようと考える女子学生もいる。
「いつも周りに女子学生がいて近づけない」
夕刻、カンナは通信機アリスが読んだ女子学生たちの考えを3D映像通信でアッキに伝えた。いつもアッキの周りに女子学生が居るため、まだふたりの婚姻届を出していない。
「それなら、3D映像通信で保健省に婚姻届をだそう。すぐ、こっちに来れるかい?」
「わかった。すぐ、行くね」
カンナは話しながら学区内にある居住施設を出た。アッキの家も同じ学区内にある。
まもなくカンナはアッキの家に着いた。これまでは教授と学生の関係のため、カンナは条例に従いアッキの自宅を訪れなかった。今夜からそれも必要ない。ふたりは夫婦だ。
カンナがアッキの自宅に到着すると、アッキはただちに婚姻の手続きをした。
「さあ、もう少しだ」
集中管理システムの端末から3D映像通信で手続きをすませ、アッキは端末から出てきたふたりのID認証をふたたび端末にセットした。端末に連動した3D原子プリンターは二個のID認証入りの指輪を誕生させた。
「これで完璧だ。結婚したよ。おめでとう!今から妻としてここにいていいよ!」
アッキはカンナの指に指輪をはめてカンナを抱きしめた。
同時にドアチャイムが鳴った。
「あたしが出る」
カンナは玄関モニターのスイッチを入れた。数人の女がディスプレイに映っている。
「先生、いますか?」
「何でしょう。用ですか?」
「質問があります。先生に会えますか?」
「教職員居住区に学生は立入禁止ですよ」
「あなただって学生でしょう?」
「私はアッキの妻です。帰ってください」
「えっ、誰のですか?」
「私はアッキ・ダビドの妻です」
「先生は結婚してたんですか?そしたらお祝いを言いたいから、会わせてください」
カンナは通信機アリスでディスプレイに映っている女の思考を確認した。
「帰ってください。魂胆は見え見えよ。あなた、発情期の雌イヌみたいになってるじゃないの。そっちのあなた!確かめてごらん!
あら、あなたもなのね!あきれたわ!」
カンナがそう言うと、女たちが見つめ合って顔を赤らめている。
女の一人が携帯端末で何か調べている。
「教授は婚姻届を出したばかりだ・・・」
女がそう言ったとき、教職員居住区に警報が響き、アッキの家を警備官が包囲した。
「全員、その場に伏せろ。条例違反で逮捕する。何も言うな。
教授からお前たちの訪問許可は出ていない。お前たちがここにいることは違反だ」
「でもあの女は、婚姻届の前にここに来てたはずよ」
「教授が婚姻届提出のために提出した奧さんの訪問許可申請は、許可済みだ」
「なんてこと・・・。男一人のことで条例を犯すんじゃなかった・・・」
女たちは警備官に連行されていった。
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