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11 管理官
大学で社会学を教えるアッキ・ダビドは、教壇の講義デスクから大講義室の学生たちを見わたした。
この学生という者たちは不可解だ。定員以上の受講希望者があり抽選で受講できるようになったのに、講義がはじまると学生の雰囲気がおおまか三つに分れる。前部席は熱心に聴講する学生だ。後部と左右の端は講義に興味を持たず他の事をする学生。そして、中間席は適度に講義を聴講しながら他の事をしている学生だ。
私は出席を取らない。課題も課さない。講義に社会通念から離れたゴシップめいた裏話も交えるから、学生のウケはまあまあだ。私は目立ってはいけない。講義が地味で目立たないのもこまる。適度に学生たちの精神の緊張をほぐし、本題から離れた話に対してどう反応するか見極めねばならない。だが、反応するのはこの学生の六割に過ぎない。これでは肝心なデータが得られない。
アッキはそう思いながら最前列の学生を見た。
最前列中央にいるカンナ・フラッターはアッキのジョークめいたゴシップに反応することなく熱心に集中管理システムの端末とにらめっこしている。講義を記録しているように見えるが実際は他の事をしている。
「では、今年度の講義はここまでにします」
講義が終った。アッキは講義デスクのプロジェクターのスイッチを切り、端末からメモリーチップを取りだして端末をスリープさせ、デスクの資料をまとめると端末とともに書類ケースに入れた。
その様子を、カンナ・フラッターは視界の片隅に確認しながら、端末で何かを送信した。
講義デスクの書類ケースの端末がメールの着信を振動で知らせた。アッキは端末を取り、メールを見てすぐさま返信した。
端末を見ているカンナ・フラッターの顔に笑みが浮んだ。
アッキはカンナを確認すると端末を書類ケースに入れ、講義室から出て行った。
カンナは席を立ち、アッキのあとを追った。
アッキが教授室に入った。カンナはアッキのあとを追って教授室に入り、大きな目でアッキを見つめて抱きついた。
「アッキ!あたしここに残る!卒業しないで、アッキといっしょに居る!」
一年後にアッキから離れて故郷にもどり、家族と暮すことなど耐えられない。アッキは物知りだ。そして落ち着いてる。家族や周りにいる若者とはちがう。
若者は無知で感情的で分別がない。若者を相手するのは幼児を相手するのと同じだ。いや、そうじゃない。まだ幼児の方が聞きわけがある。若者は性欲で行動する。蛮人と同じだ。感情や意識を育てなければ、まともな人には成らない。家族も無知な若者たちと同じだ。故郷にもどってそんな者たちの相手をするなんて耐えられない。
「僕もカンナと離れたくない。僕はカンナが大好きだ・・・」
アッキはカンナの気持ちが良くわかった。離ればなれになるのが嫌なのは私も同じだ。私はカンナが大好きだ。カンナはフェロモンの塊だ。人としての私のフェロモンの分泌を何倍にも増加させる。私の影響でカンナはさらにフェロモンを分泌する。互いの相乗効果で、互いを望みの相手だと感じている。
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