手製の甘露

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 鳥達が騒がしい。家を出て裏手の森に行くと、僕の身長を優に超える長さの太い老木が転がっていた。……違う。老木には裂け目が三つあり、震えている。樹木人(じゅもくびと)だ。なんだか調子が悪そうだ。僕は家から自家製ドリンクを持ってきて、彼の口と思しき裂け目に流し込む。 「甘い……これは」 「ハーブを煎じたお湯に陽だまり蜜とレモン汁を溶かした飲み物です。陽だまり蜜は濃い魔力を含んでいるので、すぐに元気になるはずです」 樹木人の目がゆっくりと開かれる。枯れ枝のような頭髪に緑の芽が顔を出し、みるみるうちに豊かな新緑となった。 「ヒトよ、感謝する」 森の奥に向かう樹木人を見送る。彼が歩みを進めるたび、その頭髪に一つ、二つと花がついた。
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