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「まだまだ完成しておらんが、間違いなくその意図があるように思える」
それと――、とマガンが続ける。
「王弟である猊下にお伺いしたい」
「おい、マガン。もったいぶった言い方は、止めい」
マガンとアビは年も近いことがあって、小さい頃からの遊び仲間だった。
どちらともなく、砕けた言い方になってしまうのは、その所為だ。
「猊下に兄がおられるのを聞いたことがおありか?」
「陛下のことか?」
アビの言葉にマガンが首を振る。
声に出さないのは、聴き耳を恐れてのことか。
人の気配のないことを確認した上で、マガンが囁くように言う。
「――さらにその上、だ」
アビが息を呑んだ。
「……その話が本当なら、実にゆゆしき事だな」
アビのこの発言は、王位継承に関わる問題に触れている。
この国では、性別に関係なく、先に生まれた子が王位継承権の一位になるのだ。
つまり、現在王位に在るジンシャ王の上に兄がいるならば、本来的にはその兄が王になるべき存在になる。
「先王が狩猟の帰りに立ち寄った家で身ごもらせた女人がいたそうな。その子であると、本人が言っているという噂だ」
「なんだ、その奥歯に物が挟まったような言い様は」
「宰相を通じて、典司に確認したが、記録がないという」
羅秦国の歴史や王族をはじめ、貴族に関する記録の一切は、典司という部署に保管されている。
その典司が正統性を確認しているからこそ、ジンシャが王になっているのだ。
「当然だ」
と、アビが言い切ったのを受けて、マガンが頷いた。
「だが、奴は王族の証しを持っていると聞く」
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