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「しかしだな、それなりの力がないと、本当の王は自分だ、と騒いだところで、誰も従わないであろう。まとめる者がいなければ、ただの烏合の衆じゃろ」 「(わし)はな、白沙(はくさ)通商連合が背後におるとみている」 「紗陀宗主国(しゃだそうしゅこく)か……。さもありなん――だな」 「それでだな。儂は領地に戻ることにする」 「気の早いことだな」 「何を言う。事の起こりが宗廟事変から始まっているとしたら、手遅れかもしれんぞ」 「宰相にも言ったか?」 「言った。だがな、これだけのアホどもを相手にするには、禁衛軍と合わせても王都周辺の兵力では足らん」 「相変わらずの口の悪さだな。調子に乗ってきた証拠よな。正直いって、楽しいのだろう?」 「ぬかせ」  という、マガンの唇の端は不敵につりあがった。  そこへ、扉を叩く音がした。 「――何か?」  アビが誰何した。 「猊下、お茶をお持ちしました」 「もう、そんな時間か。よし、入れ」  執務室で長話していると、余計な臆測をされ、あらぬ噂話の立つこともある。  それを避けるため、アビは必ず話の途中で茶を運ばせることにしていた。  いちど空気をいれるだけで、噂の立ちようがずいぶんと違うのだ。  入ってきたのは、二十歳を過ぎたくらいの女性の神官だった。  マガンが地図を畳んで、懐にしまった。  神官は茶道具を並べると、急須に茶葉を入れて湯を注ぎ、茶碗に分けた。  大神官長を前にして緊張することもなく、流れるような手さばきだ。  神官は、マガンとアビの前に茶碗を置くと、一礼して部屋を出て行った。
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